【そもそも解説】マイナス金利 解除でどうなる?
(注)3/16朝までの情勢も踏まえ、3/8配信記事を上書き修正しました
来週3/19の日銀・金融政策決定会合でマイナス金利政策が解除される可能性が高まっています。
ここ数日で、多くの報道機関が「解除観測記事」を流しており、金融市場も事前にほぼ織り込みました。
日銀の「マイナス金利 解除観測」が話題になっていますね。
報道がでたり、日銀幹部発言がでたりで、3月19日の会合で解除されるとの見方もじわりと強まってきました。
きょうはマイナス金利解除のポイントと、市場、景気、そして我々の暮らし(住宅ローンなど)への影響をコンパクトにまとめます。
◆ まずは一目で
まず、30秒でこの記事の60%くらいのことがわかるスライドです。
① 強い賃上げ→3月解除の可能性高まる
労働組合の中央組織である連合が昨日まとめた春闘の回答集計は下記のとおりです。
2023年も記録的な賃上げでしたが、2024年はさらに勢いが増しました。主要企業では労働組合の要求に対し、満額回答が相次ぎ、日本製鉄など「要求超え」の回答も話題となりました。
賃上げの勢いはエコノミストの大方の予想をも上回る内容でした。
日銀はかねて、春闘の結果を今後の金融政策正常化を進める上での重要なポイントだと説明してきました。インフレに加え、賃上げもこれだけ勢いづけば、ゼロ金利の解除を4月以降までわざわざ待つ必要性は薄れたといえます。
政府や財界からも、マイナス金利解除に反対する声はほとんどあがっていません。市場も3月の解除をほぼ織り込んでおり、来週解除しても、大きな混乱が起こる可能性は低そうです。
仮に来週解除を見送っても、4月には解除することが確実視されています。
② その後の利上げはゆっくり
3月か4月にマイナス金利を解除しても、そのあとどんどん利上げしていくわけではありません。
日銀の政策運営に強い影響力をもつ内田副総裁は2/8の講演で「仮にマイナス金利を解除しても、その後にどんどん利上げをしていくようなパスは考えにくく、緩和的な金融環境を維持していくことになる」と話しています。
ここで2年物国債の利回りをみてみましょう。
これは「今後2年間の日銀の政策金利が平均でどれくらいになりそうか」を映しています。
昨年後半からマイナス金利解除が意識され、上がっていますね。
ただ、いまの金利は0.2%程度です。つまり、いまから2年間の日銀の金利をならしても0.2%程度にしかならないと、市場は見立てています。
上がったとはいっても、まだまだ低いわけです。数年のうちに日銀の金利が1%, 2%と上がっていく可能性は極めて低い状況です。
ここで日米の2年債金利を比べてみましょう。
一目瞭然ですね。アメリカの強烈な利上げに比べると、日本の最近の動きは誤差といってもいいほどです。内田副総裁の言う通り、マイナス金利が解除されても、「緩和的」ですよね。
為替は金利差に左右される面がありますが、見ての通り、日米金利差はほとんどアメリカの金利で説明されます。
日銀が早期利上げをすればある程度円高圧力がかかりますが、それよりもFRBの動向の方がずっと大事なわけです。
③ ETF購入停止も…すでにほぼ形骸化
マイナス金利政策は2%物価目標に向けた金融政策の柱でした。そして、TOPIXや日経平均に連動するETFを買うことも、2%目標に向けた政策パッケージの一部です。
つまり、マイナス金利政策を解除するなら、あわせてETF購入も終えるのが理屈として自然です。
ただ、実態としてはすでに形骸化しています。下記は月間のETF購入額です。
2021年にETF購入を「積極的に」から「必要に応じて」に改めました。そのあとはかなり少ないですよね。今年に入ってからは一度も買っていません。
このため「購入停止」を名実ともに決めたとしても、株価への影響はさほど大きくならないとみられます。
時価が70兆円規模に上るETFを今後どう処分するかも重要な論点ですが、今回の会合で具体的な計画まで議論する可能性は低いとみられます。
④ 市場は①②③をほぼ織り込み
この1-2週間で、マイナス金利解除を巡る観測報道が相次いだため、市場は来週の解除をかなり織り込みました。
金曜の夜からは「日銀 マイナス金利解除へ」という踏み込んだ見出しの報道も複数流れましたが、為替市場はほとんど反応していません。むしろ、来週解除を見送った方がサプライズとなる状況かと思います。
もちろん、当日解除したとしても、具体的な文言や総裁会見によって、市場はいろんな反応をすると思います。いつものようにnoteでしっかり速報・解説するよう態勢を整えています。
⑤ 景気への逆風は限定的
ここで銀行の貸出金利もみてみます。
2016年にマイナス金利政策が導入され、貸出金利も少し下がっていますね。
ただ、歴史的にみると、もともとすごい低金利だったわけです。今後、この金利は少し上がるかもしれませんが、1%を超えてドンドン上がっていくのは、あってもだいぶ先でしょう。
住宅ローン金利もマイナス金利政策が解除されれば、変動金利型も少し上がる可能性があります。もちろん、返済負担はその分あがりますが、上昇幅はそれほど大きくなりません。
つまり、マイナス金利解除は景気に逆風といえば逆風ですが、そんなに強い風にはなりません。
そして、もう一つ大事なポイントがあります。
もし、景気が悪くなって、賃金も物価も上がりづらくなったら、日銀は利上げをやめます。
そうですよね。「賃金と物価が上がっている」からこそ利上げするんですから。もし、景気が悪化して、物価上昇も鈍ってきたら、利上げどころか、また金融緩和する可能性もあるわけです。
以前の記事でも載せたイメージ図です。
「ずーっと金利が上がって、ずーっと景気も悪くなる」ということは普通ありません。金利と景気は相互に影響しあって、いったりきたりする関係なわけですね。
◆ もっと「そもそも」
と話してきましたが、みなさん「日銀のマイナス金利」って、どういう政策かご存じですか?
「マイナス金利って、おカネを借りたら利息をもらえるの?じゃあいくらでも借りますよ!」みたいな指摘に答えられますか?
おそらく、よく知らないという方が多いと思うので、下記で「もっとそもそも」を説明しています。
とはいえ、この政策は本当に複雑なので、丁寧に説明し始めると、ものすごく長く、難しくなってしまいます。後藤なりに工夫しました。
「日銀ETF」もその下のリンクで解説しています。
https://note.com/goto_finance/n/n98216e0f49cf
では最初に載せたポイントとチャート集をもう一度載せますね。
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