そもそも経済#5 米雇用統計 なぜ重要?
久しぶりの「そもそも経済」です。なにげなく聞き流している経済ニュース。「そもそも何?」「そもそもなぜ?」を掘り下げることで、ニュースの意味がもっとわかることを目指したコーナーです。
今回は「米雇用統計 なぜ重要?」です。
雇用統計は世界で最も注目される経済指標といわれます。結果と市場予想との差を巡って、金融市場をしばしば揺らします。しかし、日欧では雇用データはそれほど注目を集めません。なぜ米雇用統計にはこれほど注目が集まるのでしょうか?大きく4つ理由があると思います。
【理由①】速報性が高い
毎月はじめの金曜に前月分が発表されます。GDPなどと比べ速報性が高く、米景気の現状や変調をいち早く把握できます。
【理由②】雇用は米景気の鏡
アメリカでは景気が悪くなると解雇が急増し、景気が回復すると採用が急増します。日本と比べ、よくもわるくも雇用が流動的なのです。
コロナ禍の2020年4月には2000万人以上もの人が職を失いましたが、先日発表の2022年7月には雇用者がコロナ前を上回りました。この山と谷の激しさは日本と比較になりません。当然、雇用情勢の波によって、個人消費や企業収益も大きく振らされます。これが雇用統計が注目される大きなポイントです
【理由③】「雇用最大化」はFRBの使命
FRB入門#1(下記リンク)で説明したように、FRBの金融政策は「物価の安定」「雇用の最大化」を目標としています。金融市場や世界経済を左右する米金融政策の判断のカギの1つとなるのが雇用統計です。
FRBは日本など他国の中央銀行よりも雇用情勢の変化を重視しています。【理由②】でみたように、アメリカはそれだけ雇用の波が大きく、社会の安定という観点からもFRBが重視しているということも言えます。
【理由④】インフレにも直結
FRBの2つの使命は「物価の安定」「雇用の最大化」といいましたが、雇用統計は前者の「物価の安定」にも影響します。
人手不足になれば、賃金上昇圧力が強まります。賃金が上がれば消費意欲は強まり、物価は上がりやすくなります。お店からすれば人件費が上がるわけですから、販売価格に転嫁せざるを得ない面もでてきます。このように人手不足は「需要」「供給」の両方の面からインフレにつながりやすいのです。
雇用統計では「雇用者数の増減」「失業率」のほかに、「平均賃金の上昇率」も注目されます。8/5の私のTwitterでも下記のように速報しています。
雇用や賃金の改善は労働者にとって朗報ですし、経済全体でみても基本的に前向きな話です。ただし、最近は急激なインフレが社会問題となっています。人手不足や賃金上昇の勢いが強いと、インフレが収まりにくいという副作用もあり、評価は少し複雑です。
「注目されるから注目される」
こうした事情もあって、米雇用統計はトレーダーにとって、月初恒例の一大イベントです。マーケットはみんなが注目していれば、なおさら注目が集まるということがよくあります。雇用統計前は様子見気分が強まり、発表直後にはマーケットが乱高下することもしばしばあります。「注目されるから注目される」というのは変な説明ですが、マーケットならではの特性でもあります。
この半年ほどは毎月中頃に発表される米CPI(消費者物価指数)も雇用統計なみに注目を集めています。歴史的な高インフレが金融政策も株式市場も左右しており、雇用統計以上にマーケットを動かすこともあります。
いずれにせよ、雇用と物価は密接に関連します。雇用統計とCPI、さらに関連する経済指標やニュースを重ねて、米経済・金融政策の行方を探っていくことが大切です。このnoteでもその補助輪となるよう適宜情勢をまとめていきます。
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