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8月貿易赤字 過去最大 円安との関係は?

けさ発表された8月貿易赤字過去最大の2.4兆円(季節調整済)となりました。資源高や円安で輸入が増えているためですが、長い目では国際競争力の鈍化も見逃せません。貿易赤字&円安が映し出す日本経済の現状をわかりやすく整理します。

まず為替貿易収支の長期チャートです。

円安はなんどもお伝えしている通り。日米金利差を背景に9/14には24年ぶりの1㌦=145円に接近しました。年明けから30円近くも円安が進む記録的なペース。10年前の円高記録(75円台)からは2倍に迫っています。

円安と密接に絡むのが貿易です。

円安になると、海外のモノを買う(=輸入)ときの円での値段が上がりますエネルギー素材食糧が代表例で、最近ではiPhoneの価格上昇も話題になりました。

◆ 8月貿易赤字 最大の2.4兆円

今年前半にエネルギー穀物の価格が上昇したのに加え、円安が強まり、輸入金額が急増。8月の貿易赤字は過去最大の2.4兆円(季節調整済)となりました。輸出も自動車などが増えているのですが、輸入の伸びのほうが圧倒的に大きくなっています。

2011年の東日本大震災後、原発が停止し、エネルギーの輸入依存が強まりました。食料自給率は低く、もとから輸入にかなり頼っています。そうした中でエネルギー価格や穀物価格上昇。追い打ちをかけるように円安が進みました。エネルギー・食料の面での日本の脆さが露呈したといえます。

長い目では輸出競争力の鈍化も無視できません。この10-20年でテレビなどの家電は中国や韓国の企業に押されました。日本の技術力の高さが売りだったカメラはスマホにマーケットを奪われました。

日本国内を振り返っても、20年ほど前の携帯電話はNEC、パナソニック、富士通、東芝、ソニーなどほとんどが日本製でした。ところがいまはiPhoneが圧倒的なシェアです。パソコンやタブレットも海外ブランドが目立ちます。

もういちど為替レートと貿易収支のグラフを確認します。

2010年ごろまではほとんどの期間が貿易黒字でした。貿易黒字なら外貨を稼ぎやすく、円安は日本経済へのプラス効果が大きくなります。日本は貿易立国ともいわれました。

ところがこの10年は貿易赤字が目立つようになり、22年に一気に急増しました。自動車など輸出産業には円安は引き続き追い風ですが、日本経済全体で円安の負担は強まっています。最近は電気代や食品の値上げが相次ぎ、生活実感としても理解できると思います。

◆ 本来ならば…

円安が進めば下記のように輸出品は売れ行きが上がるはずです。

本来なら次のようなサイクルが起こります

① 円安 → 輸出が増加=貿易赤字が縮小(or黒字が拡大)
② ①で稼いだ外貨が円に交換される → 円高圧力に
③ 円高 → 輸出が減少
④ ②の逆で円高圧力が弱まる → ①へ

長い目ではこのように貿易収支と為替レートが相互に影響しあいながら、調整されます。

ところがいまはこうした調整機能が弱まっている可能性があります。日本企業は過去10年あまり、円高対応で海外生産を増やしたため、円安になっても輸出・国内生産が伸びにくくなっています。さきほど話したように製造業の国際競争力が落ち、円安だけで輸出が伸びにくくなっている面もありそうです。

一方でエネルギー食料品海外依存度が非常に高いうえ、生活必需品です。つまり、円安で上昇した価格を輸入企業や国民は受け入れざるをえなくなっています。

こうした構造から、円安が進んでも、貿易収支の調整メカニズムが働きづらく、「円安 & 貿易赤字」の進行に歯止めがかかりません。

◆ 訪日外国人消費は「輸出」

訪日外国人消費サービスの輸出です。ピンとこない方は下記の「車」と「レストラン」を見比べてください。

訪日観光の消費の現場はもちろん「日本」ですが、アメリカ人がドルを元手に日本のモノ・サービスを買っているので、車を買うのと似た構図です。円安が進めば、外国人からみた訪日観光のオトク感が強まり、観光が増えやすくなります。

ただ、この2年あまりはコロナによる入国制限があり、円安効果がほとんど働きませんでした。これも日本の外貨獲得力をおさえ、円安に歯止めがかかりにくくなったといえます。

ただ、入国制限は緩められてきています。けさの日経新聞によれば、政府は10月をメドに外国人の入国規制を緩和します。個人旅客受け入れやビザなし短期滞在許可などコロナ前に近づくとのことです。急激な円安で外国人からみた日本観光はオトク感は高まっているはずです。外国人観光客が急増すれば、観光産業への経済効果だけでなく、円安の一定の抑止力となる可能性があります。

このように為替は金利差だけでなく、さまざまな経済要因が絡んできます。金融政策の動向が重要なことはもちろんですが、幅広い経済の現象に目配りし、様々な点をつなげていくと、経済がより深く、立体的にみえてくると思います。このnoteでは、そんな補助線となるような記事もときおり配信していけるように努力します。

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