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イールド・カーブ・コントロールとは何か

最近新聞やニュースで見かけることが多いイール・ドカーブ・コントロール(以下YCC)という言葉
どういう仕組みなのか、何がポイントなのか解説していきます

YCCは、日本銀行が行っている金融政策の一部
2023年2月7日現在、日銀は大規模な金融緩和政策を実施しています
簡単に言えば、低金利を維持し、市場から国債や株(ETF)などを買い付け、資金を流すことです
これにより企業や個人が低金利で借入れをしやすくなり、経済が循環することで物価を年率2%の水準まで押し上げ、それを持続させることで景気を良くしようと考えています

その一環として行われているのがYCCということになります
YCCはイールド・カーブ・コントロール(Yield Curve Control)の頭文字を取って略したもので、単語毎に意味を追うと、
Yield →利回り
Curve →曲線
Control →調節
となります
この「利回り」とは、国債の利回りのことを指します
よくニュースなどで見かける「日本の10年物国債利回りは」のやつです

国債には様々な年限のものが存在し、それぞれ利回りが異なります
また、金融市場での取引により日々変動しています

例えば上図は2月6日時点の日本国債の年限別の利回りになります
年限の短いもの上図の場合は2年、から30年までをグラフで繋いだものがイールドカーブと呼ばれるものになります

上のグラフでは5年から40年までの国債利回りを繋いだものになります
YCCとは、このグラフをコントロールしようという政策です

日銀は現在、YCCを通して短期金利をマイナス0.1%、10年物国債の利回りを0.5%を上限となるように行動しています
国債の利回りは、価格の上下によって変化しますが、簡単に言うと、国債を買えば利回りは下がり、国債を売れば利回りは上がると考えるとわかりやすいです
日銀は10年物国債を沢山買って利回りが0.5%以上にならないように頑張っています
また、短期金利とは銀行間で資金を貸し借りする場合の金利を指し、日銀は当座預金(民間銀行が日銀に預けるお金)の一部に適用される金利をマイナスに設定することで短期金利をマイナス0.1%に誘導しています

短期金利と長期金利(10年債利回り)を調節することからYCCは「長短金利操作」とも呼ばれます

では何故イールドカーブ(利回り曲線)をコントロールする必要があるのでしょうか?

一言でいうと、「実質金利を低く抑え込むため」
となります。が、どういうことか
実質金利とは、名目金利(国債利回り)からインフレ率(正確には未来のインフレ率の予想値である期待インフレ率)をひいたものを指します

実質金利 = 名目金利 −   期待インフレ率

これから物価が上昇するとおもう人が増えれば期待インフレ率はプラスの数値となり、これから物価は下がると思う人が多ければマイナスになる、といった具合で変化します

この実質金利を低くしようと思えば、期待インフレ率に比べてより低く名目金利(国債利回り)を誘導することで実現できるというわけです

では実質金利が低いと何がいいのか?

例をあげるとわかりやすいです
例えば、あなたが100万円する物を買おうか迷っているとします
この時、預金金利が5%、期待インフレ率が5%だとします
すると、今買うと100万円ですが、それを預金すれば一年後には105万円になります
しかしその物も期待インフレ率が5%なので105万円になります
つまり今買っても来年買っても損得なしとなります

これが、預金金利3%、期待インフレ率5%だとどうでしょうか?
今買うと100万円ですが、物は一年後105万円
しかし来年まで預金していても103万円にしかなっておらず、2万円損したことになります
つまり今買った方がいいと判断できます

この例の預金金利は名目金利を指します
つまり名目金利を期待インフレ率より低くすることで消費を促す効果があるというわけです
そのため、日銀は実質金利をマイナスに誘導することで景気を刺激しようとしているのです
その為の政策がYCCということになります

そしてもう一つ重要なのはやみくもに金利が下がればいいというものではないという点です
どういうことかと言うと、世の中には消費に回って欲しいお金と、消費に回せないお金があります
消費に回って欲しいお金は実質金利が低くなることで景気を刺激し、使いやすいようにすることを前述で解説しました
消費に回せないお金とは、年金基金などの運用しなければならないお金を指します

以前の日銀は国債を沢山買って金利を下げる政策をしてきましたが、これだけではより長い年限の金利も下がってしまい、引いては長期金利もマイナス圏に低下してしまい、長期的に運用している年金基金などは運用成績が悪くなってしまいました
そこで、短期の金利と長期の金利を同時に誘導することで、利回りの曲線を右肩上がりの曲線にすることでデメリットを解消しようと考えたのです
それが現在のイールド・カーブ・コントロール(長短金利操作)という政策を実施している理由となります

ただ、現在日銀はこの政策を持続するために大量の国債を購入しており国債の発行残高に占める日銀保有割合は50%以上となっています
そして日銀の目標である物価上昇率2%の持続には程遠い状況です

このまま日銀が国債を買い続ければいずれ買いたい国債がなくなって政策が維持できなくなる恐れがあります
そうしたことから、市場ではどこかで日銀は政策を修正せざるを得ないと考えており、日本の金利は今後上昇すると考えるトレーダーなどは日本の国債を売って円を買うという取引を行ったりしています

日本の金利が上昇すると、他の通貨から安全で金利の付く円に資金を移そうという心理が働き、円高に振れやすくなります

一方で日銀の黒田総裁はYCCは持続可能であると発言しており、先行きは不透明なままとなっています
その黒田総裁も4月に任期満了となるため、後任人事がどうなるかによっては政策修整の機会となると考える人もいる状況です


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