『上西物語』登山編プロローグ


2023年5月某日
今日も今日とて、上西は真剣な顔をしながら、ベットの上でダラダラとYouTubeを見ていた。
何本目かで、某YouTuberが山登りしている動画を見つけた。
上西は、その山登り動画にグイグイ惹きつけられていき、見終わる頃には山頂からの圧巻の景色を心に思い浮かべていた。

「山が俺を呼んでいる。」
上西は初登山へ向かう決心を固めたのだった。


話は少し変わり、5月15日は上西の生誕祭がある。
全国各地で催し物が行われて、老若男女問わず沢山の人が上西の生誕を祝う祭である。



うぬ、つい言ってみたくなって文字にしてしまったが、当然そんな祭はない。言ってしまったからには、もう後の祭りだ。

毎年の誕生日あるあるなのだが、舞台稽古や公演が無い限りは、一応休みは取っておく。
だけど、自分から「誕生日だから祝ってよ〜」と言うのは恥ずかしいから、結局何も行動を起こさず当日を迎えて、ダラダラしている間に気づいたら次の日になっている。何とも情けない。
今年も例に漏れず、誕生日2日前にして、スケジュール帳には何も書かれていなかった。


そこでピンと閃くのである。
「そうだ、山が俺を呼んでたんだった。かわいいやつめ(*´꒳`*)」

上西は31歳の誕生日に、山とデートをすることを決めた。


「山ちゃんとデートするんだからオシャレしなきゃっ♪♪」

乙女上西はちょうど最近購入したジャージやシャツを取り出し、ルンルン気分で山登りの準備をしていた。

「あ、新しいスニーカーが欲しいなぁ。山ちゃんと触れ合う場所だもんねっ!」

登山用の靴を買おうか迷ったが、万が一初登山してハマらなかった場合のリスクに備え、普段も使えるランニングシューズを購入した。
上西好みの派手な黄色いスニーカーである。


誕生日を直前に控えた5月14日。
事件は起きた。

上西「ヘイ、Siri!明日の天気は!?」

(ぴぽーん)

Siri「一日中雨です。」



心も土砂降りになった。
いや、わかる。わかるよ。
一番重要な天気を前日まで調べず、勢いだけで準備を始めてしまったのが愚かだった。
何とも愚かな上西さ。

でも誕生日だぜ?誕生日なんだぜ?
なんか、晴れると思うじゃん。根拠はないけど!
太陽にも祝福して欲しいじゃん!そんな資格ないけど!


あぁ、そこしか休みがないんだ...
16日から稽古が始まってしまうんだー!!
30歳最後の夜は、絶望へと一直線へ突き落とされた。


数時間後、ぴぽーんとメールが届いた。
内容を読むと、急遽16日の稽古がオフになったとのことである。


まさか!まさか!!
16日、行けるかもしれない!
一筋の希望が見え始めた。
まるで雨上がりの雲の隙間から漏れ出る光のように。

上西「ヘェェェイ、Siriッ!!明後日の天気は?」

(ぴぽーん)

Siri「よく晴れることでしょう」


上西は自分のiPhoneをギュッと抱きしめた。
これぞ、愛Phone。そこに愛はあった。


「よっしゃあぁ、当日には行けないが、16日に山登り行くぞっ!!」
一度消えかけた灯火が再びメラメラと勢いを取り戻した。



『上西物語』登山編

次回
「初登山、おニューの靴を泥から守り抜け!」

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