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金融機関におけるIT人材の確保・育成のための課題と方策

★本記事は「裏 法務系 Advent Calendar 2022」(#裏legalAC)のエントリーです。

保戸山理恵さんよりバトンをいただきました、ささかわごうすけです(同じ事務所なのに実は会ったことがないという…)。
去年はもうほんと息してない、みたいな記事でしたが今年は(色々悩みはつきないですが)幸いにも比較的平和な状態なので、中長期的、かつえ永遠の課題である人材確保・育成について、お話してみようと思います。

IT人材の確保・育成の必要性、IT人材の意義

数年前の調査ですが、2019年の経済産業省の「IT人材需給に関する調査」によると、2030年には最大約79万人のIT人材が不足する見込みとのことです。
金融機関においても同様の状況にあり、前後して発行された金融機関等における「IT人材の確保・育成計画の策定のための手引書」でも、IT人材の確保・育成を課題とし、その必要性が提唱されているといった記載がなされていますね。

ところで、そもそもIT人材とはどういった人材なんでしょう。同手引書によると、システム戦略を実現するために必要な人材を指し、システム部門以外の部門に所属しているIT業務に携わる人材についてもIT人材と位置づけられています。実際のところ、昨今の実務では、自分はシステム部門じゃないからIT関係ない、とか言っていられませんもんね。
かかるIT人材ですが、金融機関等における業務のIT化・多様化、リスク管理の高度化・複雑化、新しい技術やサービスへの対応、サイバーセキュリティ対応、積極的な外部委託や外部サービスの利用といった観点から、多様化し、役割の拡大と共にその必要性や重要性が増しています。
また、IT人材の確保・育成の必要性は、外部委託の進展により、却って人材維持の重要性といった点でも高まっていますね。まさに課題山盛り、といった感じです。

ITの人材の確保・育成の困難さ

IT人材の確保・育成を適切に遂行するためには、IT人材が必要な業務や、IT人材の現状と必要数・スキルセットの確認、現状とのギャップを踏まえた確保・育成の計画を立てることになります。そこで、計画まで立てたのはよいのですが、実際に確保が可能なのか、難しい場合にはどうすべきなのかという点に注目したいです。すなわち、計画も重要だが遂行できる計画でなければ意味がなくなってしまうので、確保の見込みを考慮した、(確保・育成のバランスや一時的な外部人材活用等の)計画の見直しについても考えていかなければなりません。

なお、遂行できる計画とする必要性を裏付けるレポートがあります。2022年6月に公表された金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポートでは、地域銀行のIT 人材の確保・育成に関する課題認識としては、以下の事項が挙げられています。
すなわち、中途採用によるIT人材の確保について、IT人材の需要が高まっており、求人を募集しても応募がなかなか集まらない、あるいは、地方という地理的条件や金銭面を中心とした各種処遇の条件により、高度な技術を持った人材を確保することが難しい、他業態からの中途採用は銀行業態の厳格なシステム管理への適応や業務知識の習得が必要であり、銀行出身者とのギャップの調整など、きめ細かい育成が重要となるといった内容です。もう何から何まで課題感しかない、そしてその解決のいとぐちも見いだせない、という絶望的な状況にみえますね…

また、育成に関しては、システム部要員の年齢が高く、ノウハウの継承が課題となっているのですが、若手人材が少なく育成対象者の発掘が必要となっている、勘定系システムの開発・運用を外部委託しているため、勘定系システムに関する知識が行内に蓄積されない、大型開発案件の機会が限られており、実務レベルで幅広くプロジェクトマネジメント等のスキルを習得する機会が少なくなっているといった内容があり、そもそもノウハウの蓄積や承継が困難な状況にあり、育成以前の課題に取り組む必要がある状況が推測されます。

IT人材の確保の要点

そのうえで、まずはIT人材の確保において最も重要なことは、IT人材にとって魅力的な職場であることです。極めて基本的な事項ですが、まずは処遇や業務内容の魅力であり、特に業務内容については、取り扱うプロダクトの魅力や、業務による成長の余地、可能な限りでのキャリアパスの明確化などが重要になるでしょう。これに関連して、IT部門の重要性や影響力、権限についても重要です。たとえば、いくら業務内容やプロダクトが魅力的でも、組織カルチャーやIT部門の重要性等で、活躍の余地が小さいと見えれば、たちまちIT人材は逃げ出してしまいます。
なんか当たり前のことしか言っていないのですが、実際にその当たり前を実行できているところって意外と少ないのでは、と色々な人から話を聞いていると実感していたりしますね。

また、人によって重要度は異なるが利用ツールなどの業務環境やチーム環境(人間関係)、組織の中長期展望やシステム戦略についても、IT人材が所属先を選定するに当たっては重要と言えます。
ちなみに、人材の確保にあたっては、その組織への参加によるメリットだけでなくデメリットをしっかり理解してもらうこともミスマッチを避けるために重要ですね。

これらを踏まえてIT人材を確保できるような計画となっているかをみる必要があり、仮に必要となる時期に必要な人員の確保が難しければ、育成の比率を挙げる、一時的に外部人材を活用するといった計画の見直しが必要となります。特に、ハイレイヤーのIT人材については確保が非常に困難であることから、外部人材の活用について、(いわゆるコンサルティング会社ではなく)契約期間を定めずに継続して関与することを前提とした、内部の職責者となりうる非常勤の人材を活用するといった方法も考えていくのが良いと思います。

IT人材の育成の要点

IT人材の育成にあたっては、そのIT人材に求めるスキルやレベルによって育成の可能性・余地が大きく変わることを理解する必要があります。すなわち、ITに関連する役割期待や難易度が比較的低ければ育成をしやすく、高ければ育成は難易度が上がる。まずは育成をしやすい人材から順に、確保より育成に重心をおいてIT人材としていくことが重要だと思います。

また、育成の難易度が高くとも、ITには直接関連しない隣接分野でのスキルが高いことで、難易度の高い育成が可能となることもあります。いわばポテンシャル採用における既存スキルとの親和性であり、たとえば、個人情報保護法上の安全管理措置やプライバシーに関連する業務であれば、リーガルスキルを保有することで、各種ガイドラインの理解などにおいてスキルの親和性が高く、難易度の高い育成が可能となることが考えられます。

もちろん、育成者が充実していることも重要です。
育成においては、資格取得の奨励や外部研修への参加、外部への出向など、外部のノウハウを活用することも重要です。一方で、最終的には自社の現場実践(OJT)などで自社における業務取組をする必要があり、その際には、育成者の充実が欠かせません。(一時的なものも含めて)外部人材の活用によるノウハウの習得も方法の一つとしつつ、中長期的な計画を立てるにあたっては、育成者の充実についても十分考慮する必要があります。

リテンションの重要性

以上のような方法をとりつつIT人材を確保・育成することができても、IT人材にとっての魅力がなくなってしまえば、IT人材は売り手市場となっている労働市場に流れてしまいます。確保や育成に高いコストがかかる中でIT人材が流出してしまうことは大きな痛手であることを理解し、上記のような魅力的な環境の維持、向上を継続的に図っていくことこそが、最も重要であると言えるのではないでしょうか。

プライバシー人材確保・育成の要点

IT人材に加えて、さらに確保が困難なのがIT企業におけるプライバシー人材ですね。

プライバシー人材については、一般企業においては、法務部門・コンプライアンス部門等において、個人情報保護法対応という観点で業務に携わることが多いのではないでしょうか。しかしながら、昨今においては、単に個人情報保護法に対応するだけでなく、プライバシー影響評価(PIA=Privacy Impact Assessment)まで実践することが個人情報の安全管理において重要になっています。
プライバシー影響評価については、現時点で法令上必要なのは特定個人情報についてだけであるが、個人情報保護に当たってその重要性は日々高まっており、対応すべき範囲は拡大しています。一方で、その実務に携わった経験がある者、特にIT企業のように個人情報の所在が目に見えづらい業種における的確な対応が可能な人材は極めて少なく、その確保は困難です。

経験がある人の確保が困難であることからは、育成に重点をおいていくべきでしょうね。具体的には、上記のような個人情報保護法対応の経験がある法務・コンプライアンス部門の経験があり、かつ、IT企業における個人情報の扱いを理解できるポテンシャルがある人材(そういった人材自体相当少ないが、転職市場に一定数は存在すると思われる)をまずは確保します。
そのうえで、プライバシー人材とすべくプライバシー影響評価等の実務経験を積む。まず、座学としては、ISO29134等の基準・規格を理解・学習する。それとあわせて、新しいサービスを一から展開するケース、比較的プロジェクト規模が小さく全体感を把握しやすいケースなど、経験を積みやすい分野を当初は中心にしつつ、様々な経験を積むことで、OJTを通じて成長を図るのが良いでしょう。こういった①前提となる知識・経験と、②座学、③実務を組み合わせることで、数少ないプライバシー人材の確保・育成が可能になるのではないかと考える次第です。

さてさて、明日12/13はYuichiro MORI sanのエントリーです、楽しみにしてます!

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