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中日・上林誠知の生き方「運命を愛し、希望に生きる」

ソフトバンク・ホークス上林誠知外野手の中日入りが報道されました。
彼は私にとっても特別な選手。阿部寿樹に続き、中日に縁を持ってくれたことがとても嬉しく思います。私から見た上林を、10年前を思い出しながら綴ってみました。中日ファンの皆さま、上林をよろしくお願いします。

若手アナウンサーにとって高校野球取材は登竜門だ。
私にとって初めての高校野球取材が、宮城の強豪仙台育英だった。
当時の監督は、佐々木順一郎さん(現・学法石川)。
正面から野球の話をすることが少ない、柔和な一方で、目の奥には厳しさも感じさせる不思議な指導者だった。彼、佐々木監督が掲げたチーム哲学が
「運命を愛し、希望に生きる」。
この言葉を胸に、今も野球に向き合い続ける選手たちがいる。

当時のチームメイトは粒ぞろいだった。熊谷敬宥に馬場皐輔(ともに阪神)をはじめ錚々たるメンバーの中心にいたのが上林誠知。高いレベルの選手が集まるチームの中で、誰もが認める存在。当時は細身ながら、独特の雰囲気を持つ選手だった。
上林誠知という選手を伝えるために、
いずれもこの目で見た忘れられない2試合を振り返る。

1.高校3年夏の決勝戦。

初回に5点を奪われる苦しい立ち上がりとなった。
追い上げを見せた仙台育英は2点を追う8回に右翼席への本塁打を放った。その後、チームはサヨナラ勝ち。甲子園への切符を勝ち取った。

私の目に焼き付いているのは、その前の打席。上林の打球は内野ゴロ。際どいタイミングで、一塁にヘッドスライディングし、内野安打を勝ち取った。ここで試合の雰囲気が変わる。高校時代、彼のヘッドスライディングを見たのはこの日が最初で最後だった。上林はクールな一方、ここ一番のところでは熱いプレイを見せる。これはプロに入ってからも変わらない。

2.高校3年夏1回戦 VS浦和学院

ものすごい試合だった。スコアをご覧いただくのが早いだろう。

相手先発は、小島和哉(現ロッテ)。初回に小島の制球が乱れ仙台育英が6点を奪うも、3回、まさかの7安打8失点。劣勢に立たされた仙台育英だが、浦和学院にも守備の乱れがあり、6回に同点に追いつく。熊谷敬宥はサヨナラ打を含む4安打の大活躍。この試合、上林は5打数無安打3三振。大逆転劇の中、どこか、重い雰囲気をまとっていた。

そして、2回戦では内田靖人(元楽天)擁する常総学院に敗れる。
上林は3年夏、わずか1安打で甲子園を去ることになる。
結局、選抜も含めここ一番では実力を出し切れないラストイヤーとなった。

3.阪神 熊谷敬宥との絆

いつも冷静な上林が、最後の夏、敗退直後。目を潤ませる瞬間があったのが、盟友・熊谷敬宥と握手をした瞬間だった。
練習でペアを組むとき、上林の隣にはいつも熊谷がいた。強豪・仙台育英でともに1年春からベンチ入り。グローブの中に刻まれた刺繡に運命を感じたという。2人のグローブには、ともに「頂点」と刻まれていた。
上林は2013年のドラフトで。熊谷はその4年後に、同じプロの舞台に飛び込むことになる。

10年前のドラフト当日、私は仙台育英に向かった。当初、ドラフト1位候補だった評価は、夏の甲子園、高校日本代表で結果が振るわなかったことで、ドラフト上位候補に。結局、ソフトバンク・ホークスに4位で指名された。その日、彼と焼肉屋に行った。祝勝会のつもりだったが、彼の口からでたのは、高校日本代表での悔しさ、「この評価を覆す」というプロでの決意。
黄色と黒のホークスカラーのネクタイをプレゼントしたのもいい思い出だ。

2013年ドラフト当日

4.プロ入り後

あれから数年、上林はホークスのプロスペクトになった。特に、則本投手からよく打った。年に一度程度、活躍を称えるLINEを送ると、短いながら必ずすぐに返事をくれる。
仙台に来て、タイミングが合えば、あの時と同じように焼肉を食べに行った。彼の口から出たのは「ギータさんは超人」「明石さんは天才」。ホークスの先輩へのリスペクトの言葉が並んだ。恵まれた環境で、まっすぐ野球ができていると感じ、嬉しくなった。

ただその後、左手甲の骨折や右足アキレス腱断裂と故障が続いた。
それでも一軍に呼ばれ続けていたので心配はしていなかったが、今回、まさかの構想外。本人にビックリしたことを伝えつつ、エールの連絡を送ると、
すかさず、「ですよね!ありがとうございます!」となんとも彼らしいシンプルな返信。

そして、14日は「お疲れ様です!中日に決めました!」と連絡をくれた。
これまたシンプルな文面だが、律儀な男だ。今度は、熊谷と、馬場と一緒のグラウンドに、甲子園で戦える機会も増えるだろう。

ドラフト指名され、焼肉をつついてから10年の月日が流れた。彼はあと一歩のところで、運命の悪戯でホークスの絶対的選手にはなれなかった。ただ、10年前のあの悔しい一日があったように、今回の試練も上林を大きく成長させてくれるはずだ。運命を愛し、希望に生きてほしい。


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