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金属探知機の警告

2014、4、5、
 さて、暇な土日になった。最近、怪我の話がよく出るので、俺が甲府の4工場で子供のエプロンを縫ってた時のことを話しよう。
 ある冬の朝、ミシンを踏んでいたら針が折れた。そんな時は、バラバラになった針を全部集めてオヤジのところへ持って行って、新しいのに交換しもらうのがルールだ。
 そのまま作業続行していると、左手の人差し指がじんじんしている。さっきまで、甲府のあまりの寒さに手はかじかんで気が付かなかったが、なんと、人差し指の爪のわきから反対の指紋の真ん中まで針は貫通していたのだ。それが分かったとたんに小心者になる。
 俺は絶対に医務に行く。人になんと言われようと行く。怪我に弱いのだ。
 案の定、何ともないと、消毒だけして一安心。
 ところがこの、小さい針の傷痕は、一週間たっても塞がらない。
 作業で最終っチェックのため、袋の中に、針などの混入物がないか、金属探知機にかける。
 最初の一枚を探知機にかけるとピピっとなった。それをはじいて、作 業続行。またも警報が鳴る。
 おかしい。二枚続けて不良品かよ。と、それどころか、次のも次のもピピッとなるのだ。
 最初の商品の、封を開けて確認したが、何も出ては来なかった。
 そしてその他の製品からもやはり何も出てこない。そりゃあそうだ。 金属探知機が反応してるのは、エプロンじゃなくて俺の指なんだから。
 どうやら、針が貫通して折れた際の破片が、指の中に残っていたのだ。
これには冷や汗が出た。残っているといっても一体どこに?浅いのか深いのか見当もつかない。落ちるなあ。この落ちた気分のまま医務にいった。
 すると何やら、ピーターパンに出てくるフック船長の片腕のようなかぎ状の器具を出してきて、これで傷口をほじくっていこうというのだ。
 いったいどっちからほじくった方が早いのかも分らぬままにだ。
 指紋のある方から行くことに決まった。やられたよ。死んだ。大騒ぎだ。ギャーギャーやってしまった。そしてやっとシャーペンの芯を1ミリの長さで折ったときのような小さな破片が出てきたときは、ほっとして涙が出たよ。
 さんざん医務の先生とオヤジ5人を巻き込んでの騒ぎだったがそこへ金属の7工場から、片手をけがして男が入ってきた。現役キックボクサーの日本チャンピオンだったとか。タオルでくるんだ左手は真っ赤に染まっている。サンダーでやったらしい。この人いっつもケガしてんだよね。よく、工場クビになんないよ。
 だから、そそっかしいひとはケガしやすい。周りから見たらいつもケガする人は同じ。なんて言われたりする。ところが慣れてるせいか彼の我慢強さは群を抜いてる。タオルを取ると、オヤジ連中は「おお」って言った。
 この時点で俺は見れねえよ。
オヤジ連中も慣れたもんで、器具を出してくるが、治療するのは本人だ。なんと自分で親指の付け根を縫って去っていった。「すごいなあいつ」とその後姿を見て言った。
そして全員、視線は俺に。
「なんだよ。なんで俺をみるんだよ!」

まぁ、確かに我慢強くはないな、俺は。

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