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悪魔の棲む口

2014.3.6

 歯痛に同囚が苦しんでいた。
懲役で何が一番苦しいかって虫歯が痛み出すのが一番じゃないかな。
 俺は歯痛は最高に苦手だ。本当にのたうちまわる。
同囚は気の毒にも耐えているようだ。俺には無理だな。発狂してしまう。
だから声をかけることさえはばかられる。
 歯が痛み出してから歯科治療の申し込みしたって3か月待ちが当たり前だ。毎日毎日苦しみぬいて、歯もボロボロになって痛みが遠のくのをアスピリンだけで待つしかない。  そうなってから順番が回ってきても痛みは治まってるもんで今度はあんまりいじくってもらいたくなくなってしまう。
 甲府に勤めたころ、同じ工場のベトナム人が歯痛で苦しんでおり、顔がバレーボールのようになっていた。歯科医がいないので仕方ないから。内科医あたりが歯の膿を抜くのに頬っぺたの外側から針を刺して膿を抜いたとのこと。戻ってきた本人の頬っぺたにはいくつもの注射針の後が残っていて、本人は泣いていました。
 さっきより腫れてる顔が痛々しい。これ見たら懲役で歯医者にはかかりたくない。 

俺は前々刑の時の留置場で歯痛に見舞われた。
もうやばい。我慢の限界だ。一刻も早く歯医者に連れてってくれと頼むが、のらりくらりとかわされているうち痛みはMAXだ。
 煮え切らない留置係に切れて、早くつれてけよーとドアを思い切り蹴っ飛ばす。この瞬間いたみがうすらぐ気がして、歯の痛みを忘れるほど強く蹴っ飛ばして止めない、気違いだな。他に迷惑もくそも関係ない。 しかし本人はいたって真剣だ
 もう完全に泣きが入ってるよ。だから歯医者に連れて行くまでぜったい止めない。痛みが激しいので力も入る。 あの鉄格子を真剣に蹴っ飛ばしてたらどうなったと思う。ドアを蹴飛ばしてた左足の親指が骨折した。一瞬留置場も静かになった。するとさっきからずっと見ていた担当が、「ああ、そりゃ取り合えず歯医者より整形が先だなって。
 うるせえー。足より歯のほうが全然いてえよ。だから歯医者を際に行ってくれー


歯だけは大事にしとけばよかったよ。

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