遠い雪の記憶

2・10
 なんでも東京では45年ぶの大雪となったらしいね。
ニュース成田空港は、欠航の足止めを食ってる人たちで大パニック状態だと放送してたぞ。
 一昨年は雪で原付が動かねえとかなんとか、電話してきたけど今回はそれどころじゃないね。

 昨日に引き続き、親父の話をしたついでにもう一つ、遠い雪の記憶があるので聞いてくれよ。
 前回の大雪が45年前だとしたら、俺が4歳。
 ボロアパートに親子3人が住んでいたころ確かに大雪が降った。
 アパートの前にある夜の広場は雪のせいか人影も見えない。一面きれいに雪が積もっている。恐らく俺が見る初めての雪だったんだと思う。
 親父は雪だるまを作ろうと俺の手をとり、外に出ようとするが、おふくろが「この子は風邪ひいてんのよ。やめて」とすごい剣幕で猛抗議して引き留める。
 しかしオヤジはそれならあったかい洋服に着替えさせろ。と、得意の強引さで俺を外へ連れ出した。
 夜の雪の中で親父は小さな雪玉を転がして、だんだん大きくしていく。
これまた、子供の目から見た雪玉はどんどんデカくなっていく。
 アパートの二階の窓からは、おふくろが苦笑いで見ていた。
 その時の事覚えてるんだからきっと感動したんだと思うよ。
 なんだか幸せな家族の一場面だろ。
あの、酒、ギャンブル、そして暴力のみで恐ろしいばかりに自分のことしか考えない悪い父親だったけど、あの頃は確かに愛されていたような気がする。

そんなこと本当にあったか、お袋に聞いてみよう。

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