恐怖の面会(他2本)
2015(平成27年) 5月29日 記
マサは毎週月曜日にC型肝炎の治療のためにここ蒲田警察の近くにある病院へインターフェロンを打ちに来ている。
そのついでに俺のところへ面会に来てくれているのだが、今日は金曜日だ。しかも今週頭にも面会来たばかり。
何だ急用か?
こういう時中に居る人間はとても臆病になる。お袋に何かあったのか? いい知らせなのか悪い知らせなのか⁉
『31番。今日タカハシさんがPM1:00に面会来るけどどーする。』
留置場ではこうして面会に応じるか否か聞いて来る。
『ええ。お願いします。』
と答えてからは気が気じゃないよ。1時になると担当が呼びに来た。もうドキドキだ。
怖くてスッと面会室に入る事ができない。ドアの外から声掛けるんだよ。
『オーイ。マサ。何だ!』
「オオ」
『何だ。良い知らせか?悪い知らせか?』
「何が」
『何か有ったのか!何だ』
「何が?今日雨降ってて仕事休みだからさ。ブラっと来てみたんだ
よ。」
『えっ!ちぇっ。何だよ。そんな事かよ。おどかすんじゃネーよ』
「何が!」ほっと安心して面会室に入る気になる。
『まったく心臓に悪いぜ。それで何だよ今日は』
「別になんでもねーよ。迷惑なのかよ。おもしろくねーな。せっかく来てんのに!」
留置場の運動って?
2015(平成27年) 5月30日 記
留置場のカベにはサ、予定表みたいのが必ず張ってあるんだ。
起床だ、点呼だ、朝食だと、それぞれ時間が張り出されてる。
その中に"運動"ってのが有るんだけど、別に外に出て歩いたり走ったりができるわけじゃない。
初めて来たときはとまどったものだよ。
ただ房を出て、4帖半ほどのスペースの陽のあたる場所へ出て、ヒゲ剃りしたり爪を切ったりする。そしてなんといってもこの留置場の運動のメインイベントは2本のタバコ。
・・・だった。
と言った方が良いかナ。昔はこの一日たった2本のタバコが吸いたくて運動の時間が待ちどおしかったものなのだ。
しかし現在は法改正とかで調べの時も含めて全国的にタバコが吸える警察は無い。
3年前、小田原ではまだこの運動時間のタバコはあったが、一早く喫煙を禁止した警視庁につづいて、神奈川県警もそれにならった。
だからもうヒゲを剃りには出るが何の楽しみがあるわけじゃないから、ムダなアゴもいかずにすぐ戻る。ああ、せめて留置の間くらいはタバコ吸いてェな。
取り調べマニュアル
2015(平成27年) 5月31日 記
取調べだよ。
もう検事は終りと言ってんのにまだ俺がそれを知らないと思って今日も言ってるよ。
明日で拘留満期だから。
『ガサもれなんて通用しないって検事に怒られちゃったよ。』
とかネ。それでどこから物を引っ張ったか何とか名前を出させたい。
そのしつこさもマニュアル通りの調べ方なら今日はもうひとつマニュアル通りの戦法で来たよ。
しかしこいつが頭に来たんだ。図体のでかい班長が突然やって来て俺と調べ官の間にドカッと座る。
『ゴトー。もう正直に話さなあかんで!それが早く帰って来るために一番やてもう判かっとるやろ。何べんも来とんやから。』
まあ、いわゆるアメとムチだな。
ひとつ高いところから高飛車に来る。
『お袋サンもいい年なんやからいつまでも泣かせたらアカンで』
「だからそうしないように生活してたの判かってんじゃないの?」
『この前お袋サンに来てもらったときもな・・・。』
「年だってわかってんなら呼び出さずに聞きに行けばいいだろ」
『お袋サンの方で来てくれるって言ったんや。その時だって、調べの上内はちゃんと車で送り届けてあげてんだから、その誠意がわかればちゃんと正直に答えても良いやろ』
これが頭に来たんだ。
「オイコノヤロー。お前何様でそんなエラそうに物言ってんだ。お前らに年寄りをいたわる気持ちが有るならこんな狭い取調べ室の中で5時間も事情聴取するかってんだ。お袋は犯人じゃねェんだ。パトカーとばして家まで送るくらい当り前じゃねェか」
すると班長ムッとした顔して引っ込んでいったよ。調べの上内に言った。
「だいたい正直になるのはあんたの方だろ。毎回毎回よォ。検事が調べ終わりといってんのに何の調書を巻くんだってんだよ。」
『・・・検事がそう言っちゃってたの?・・・』
PS
今思い出しても頭に来るな。
(写真)
いつかどこかの刑務所で描いた水彩画、どこだっけかな。
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