ヒーローになりたい

 テレビで「初めてのおつかい」を見た。大きくなった少年が、当時遊んだ公園を訪れて「ええ?こんなに小さかったっけ」と一言。
 そうだよ。子供ってなんでもビッグに見えてんだよ。

 親父と一緒で、俺の胸の真ん中には、ほくろがある。小さいころ夜道を親父と歩いていると、親父は突然スキップしたと思わせたそのあと、ジャンプしてボーズを取りながら、なんと胸の真ん中から勢いよく炎を放った。
 びっくりしながらも俺は「これができたらおれもヒーローだ」。
そう思った。
どうやって火を出したのか、しつこく聞く俺に対してオヤジは言う。
 「ニンジンを食え」と、教えてくれた。それからというもの、俺は苦手なニンジンを、ひたすら食った。食って食って食いまくった。
 しかし、俺の胸のほくろから炎は一切出ることはなかった。
親父は俺が18歳のころ借金を残して失踪した。
 大人になるにつれ、あの時親父がどうやって炎を出したのか不思議でならない。
本人がいないので疑問はふくらんだまま。

そして甲府に勤めたとき、突然、おふくろから手紙がいて、「お父さんと面会に行く」。と記してあった。
親父が帰って来たのだ。
 あれほど苦労したお袋だったけど、きっと年取って寂しくなったのか。「お父さんを許そうと思う。楽しい人だから」なんて書いてあって、お互い年取って仲良くやってる感じだった。
「あなたもお父さんの事許してくれるといいんだけど」とも書いてあるが、俺は親父の失踪を恨んだこともなければ、今も憎んでもいないよ。二人が幸せならそれでいいんじゃないか。といった。

 約束の面会の日、およそ30年ぶりにオヤジに会うのだけれども、暴力の中で育った俺は、年老いて記憶とは、だいぶ違う姿になった親父が面会室のドアから入ってきたとき、怖かった。そして緊張した。何を話していいかわからず俺がきいたのは、「昔、夜道で胸から火を出して見せたよね。あれいったいどうやたんだ」(別にそんなこと後でだって聞けるだろう!)
 この答えがまたビミョー。
「おお、よく覚えていたな。あれはマッチ一本すって投げたんだ。」
 ええ? マッチだって?ふざけんな。あれだけ大きな炎が出ていたのにかよ。その場面は今でも目に焼き付いてるよ。なのにマッチ一本とは。

子供ってのはなんでも大きく見えてんだろうね。

こんな感じだったんだけどなあ

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