投手の評価について〜防御率と守備力〜


久しぶりの更新となります。

先日、株式会社DELTA監修の元「セイバーメトリクス入門〜脱常識で野球を科学する〜」が発売されました。
もう読んだよ〜という読者の方も少なくないかと思います。

良本です。未読の方はすぐに読みましょう。
読んだ方には退屈な内容になってるので、読み飛ばしてください。
前半は指標について掻い摘んで簡単に紹介し、後半で実際の直近のデータを並べながら検証していきたいと思います。
次に公開するnoteの前座として作成したので良かったら目を通してみてください。


背景

投手の評価として、勝ち数、防御率、奪三振、被打率、被本塁打などなど、いくつか思い浮かぶかと思います。
これから紹介する投手指標は、ざっくり言うと「勝ちとか被安打とか防御率って野手の責任もあるんじゃないの?」→「野手から独立した投手の能力を評価しよう」という発想から生まれたものです、雑な言い方ですが。
例えばインプレー打率を決める要素は、
運  44%
投球 28%
守備 17%
球場 11%
で構成されており、打球がアウトになるかヒットになるかは運や守備、球場の形状により大きく左右されてしまいます
これでは投手の能力をきちんと反映できないですね。
勝ち星は野手がどれだけ点を取るかにもよるし、防御率は野手の守備範囲が狭くアウトにできない打球が増えると悪化してしまうものです。
それらを踏まえて3つの指標を紹介したいと思います。

投手の評価指標

①FIP…被本塁打、与四死球、奪三振から算出した擬似防御率
②xFIP…FIPの改良版。外野フライが本塁打になる確率を一定として算出したもの。
③tRA…FIPより精密に投手の責任を算出した擬似防御率。四死球、本塁打、三振の他に、ゴロやフライ、ライナーに重み付けをして算出したもの。


FIP(Fielding Independent Pitching)
【計算式】
FIP=(13×被本塁打+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振)÷投球回+定数

私がセイバーメトリクスを初めて知ったのが2014年くらいだったかと思います。
その際に、何の意味があるんだこの指標は?と胡散臭いデータだと一蹴したのがFIPです。

野手の関与しない被本塁打、奪三振、与四死球のみで構成されたものです。
(これで何か分かるの…??)となりますね。
被本塁打と四死球、奪三振にそれぞれ重み付けをして算出しています。
防御率が意味のない指標という訳ではなく、あくまでも野手の介入しない奪三振・与四死球・被本塁打から防御率を算出しようというものです。
当時はなんだこれと思ってましたが、簡単な式でありながら防御率との相関も高く、非常に優秀な指標です。


xFIP(Expected Fielding Independent Pitching)

【計算式】
xFIP=(13×0.11×外野フライ+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振)÷投球回+定数

先ほど紹介したFIPの改良版です。
あれ?なんで外野フライが入ってるの?となったかと思います。
簡単に言うと、統計的に外野フライに対する本塁打の割合は長期的には一定の割合に収束するというから研究結果から産まれたようです。本塁打自体があまり多くない現象のため振れ幅が大きいので、その影響を一定にして投手を評価してあげよう、という感じです。なるほどですね。


tRA(true Runs Average)

【計算式】
tRA={(0.297×四球+0.327×死球-0.108×奪三振+1.401×被本塁打+0.036×ゴロ-0.124×内野フライ+0.132×外野フライ+0.289×ライナー)÷(奪三振+0.745×ゴロ+0.304×ライナー+0.994×内野フライ+0.675×外野フライ)×27}+定数

ややこしい式ですね。
簡単に言うと、与四死球、被本塁打、奪三振だけでなくに、ゴロやフライ、ライナーそれぞれの事象の失点期待値、アウト獲得期待値から算出したもので、真の失点率という意味です。
詳細が気になる方はリンクから詳細を覗いてみてください。
ゴロやライナーなど野手が関与するものが入っていますが、これは守備が平均的だと仮定し算出した数値なので、チームの守備の良し悪しで変動することはありません。

このようなアプローチで投手の力量を評価してるんですね。


チームの守備力と防御率

ここまで防御率は野手の守備力や運、球場の影響も受けてしまうので、野手の影響から独立した投手指標を作ったよ、という話をしてきました。

では実際に防御率が守備の影響を受けているのかを、実例と照らし合わせてみたいと思います。
冒頭紹介した通り守備はインプレー打率の17%を構成しており、決して小さくない影響かと思います。
実際に過去3年のチームの守備力が防御率に与えた影響について検討していきたいと思います。守備の指標としてはDERを使用していきます。DERは「本塁打を除いてグラウンド上に飛んできた打球のうちアウトにになった割合」を表す指標で.700くらいが平均値です。
ざっくり言うとフェアゾーンに飛んだ7割くらいはアウトになりますよ、という目安になるかと思います。

画像4

こちらは過去3年間のチーム守備力(DER)と防御率の関係性です。
相関は強くありませんが、守備力が高くなるほど防御率が低くなる傾向が確認できます。

次に防御率と守備の影響を受けていないtRA(真の失点率)から守備の影響を受けているERA(一般的な防御率)を引くことで、守備の影響度を測ってみたいと思います。
思い付きの指標のため、どれほどの意味があるかは正直分かりかねます。
参考程度に楽しんでもらえればと思います。

横軸にチームDERを、縦軸にtRA-ERAを設定。
2017シーズン〜2019シーズンの各球団ごとのデータをプロットしてみました。

画像2

年度ごとに相関にばらつきはありますが、全体を通してやはり相関があるように見えます。
チームの守備力が高いほどtRAと防御率の差が大きくなる、つまり実際の能力より良い防御率が出やすくなってしまう可能性があるということですね。
逆に守備力が低いチームでは差が小さい、もしくは防御率の方が高く出てしまうこともあります。
因みに守備指標をUZRでも同様の検討をしましたが、同じような傾向が見られました。
ついつい防御率や勝敗数だけを切り取って投手の能力を評価をしてしまいがちですので、これらを念頭に置きながらこの投手の真の力量はどの程度なのかな?というのを考えるきっかけになって頂ければ幸いです。

次回のnote投稿では実際に選手をピックアップしていく予定です。
それでは。

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