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『対自核』


〝この鏡には本来のあなたの姿が映し出されます。どうかご注意下さい”


とある古びた洋館の玄関口に、そんな貼り紙がしてあった。

通学時に気が付いたんだよ。
いや、余程ヒマなんじゃないかって?
違うよ。気になってしまう程に此処は不気味な建物なんだよ。来て見れば分かる。

しかし、毎日何処を見ても鏡らしき物は無いんだ。

この洋館のオーナーは余程のユーモアの持ち主か、もしくはとんだ食わせ者だね。

僕は通過する度に、通りに面した錆び付いた門の間から、その貼り紙に書いてある『鏡』を探していたんだ。


「あれ、凄く気になるよネ!」


突然背後から声を掛けられた僕は、少し飛び上がる位に驚いた!

しまった!洋館に住んでる人だ!!
不審者に思われたに違いない。
僕は恐る恐る振り向いた・・・


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そこには一人の女子・・・隣町にある進学校として有名な、某女子校の制服を着た女子が立っていた。

「あの貼り紙に書いてある事って本当なのかな?あんなの貼ってあったら、普通気になるよネ!!」


女子は僕が覗いていた隣りに顔を寄せて、敷地内を見廻す。

顔が近くてドギマギする・・・!
しかし無理に平常心を装って僕は、変わらずに敷地内を見廻すフリをした。


「やっぱり入らないと分からなくない?」


そう言うと女子は、あろう事か洋館の門を押し開いた。


「見つかったら〝探し物がある”って言えばよくない?名案でしょ?」


なんていう人なんだ!!
女子は平気な顔をして敷地内に足を踏み入れているし!
逃げる訳にもいかなくなった僕は、一緒に入って行った。


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ほんの数メートル進むと、呆気ない程に玄関口は近くにあった。

貼り紙の文字が読める位だから、そんなに遠くはないのだが、何故か門からは少し距離がある様に感じられるのだ。


「君ってさ、あのエリート高校の生徒なんでしょ?」


鏡を探しながら女子が話しかけてくる。


「やっぱり!じゃ、将来は東大とかに行って官僚入りコースとか?」


いや、そんな事、今は関係ないでしょう?
しかし官僚だなんて、ハハハ。
ハハハ・・・


「へ〜。凄いんだ。それがキミの夢か〜。
私とは大違い!偉いな〜、人生楽しんでいるな〜。」



ハ?人生を楽しむって?それは今を努力して、良い点数と良い偏差値を生み出した結果の・・・地位を得ての楽しみだろ?
楽しむなんてまだまだ先の話だ!


「何?もしかしてムッとしてる?
あっ!!やっぱり!!思った通りの所にあったよ!!『鏡』!!』


何だよ。貼り紙の下にあったんだ。
これじゃ路地からじゃ分からないよな。


「なーーーーんだ。つまんない!コレ普通の鏡だよ。」


アハハ。そりゃそうだろ。
この世に不思議な鏡なんて有る訳無いでしょ?
しかし鏡に映る女子の可愛い事といったら・・・


「折角だからキミも鏡に映ってみたら?
あれ?あれっ?おかしくない?
鏡が歪んでキミの顔がちゃんと映ってないよ!!大丈夫?!」


アハハ。やっぱり、やっぱり映らないんだ・・・
本当はもう嫌なんだ。
もう勉強なんてしたくない。
エリートなんてどうでもいいんだ・・・


「キミ。ロックって聴いた事ある?
いいブリティッシュ・ハードロックがあんのよ!!これがまたオルガンがカッコ良くてさ!ウチに聴きに来なよ、絶対に最高だからサ!」



〝この鏡には本来のあなたの姿が映し出されます。どうかご注意下さい”



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『LOOK AT YOURSELF』 URIAH HEEP  1971年

イギリスを代表する重要なハードロック・バンドであるURIAH HEEP。

先日、バンドの創設者の一人であり、華麗なオルガン〜キーボード演奏者であった『ケン・ヘンズレー』氏が、残念ながらお亡くなりになりました。

氏の影響力は非常に高く、長年に渡るバンド・URIAH HEEPの活動の根源であり、音楽的にクオリティの高さをキープ出来たのも、『ケン・ヘンズレー』氏の存在あればこそ!!

どうか御冥福を心からお祈り申し上げます。




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