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『竹鳴り』


嫌いだ。



僕は夜が嫌いだ。



何故世界は闇に包まれなければならないのだろうか?
いっそ夜など来なくて良いし、毎日が白夜でも構わない。


僕は部屋のカーテンを完全に閉め切り、夜という存在を意識から遠ざけ、外界からの音が聞こえない様、強く耳を塞いだ。


だけど『ソレ』は聞こえてくるんだ。


故郷から遠く離れたこの場所に、移り住んでいたとしても・・・


『ソレ』は、嘘を付いた僕を戒める様に・・・今夜も鳴り続ける・・・



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嫌いだ。


僕は夜の音が嫌いだ。


その『奇妙な音』は、隣接する竹林から毎夜の様に聞こえていたんだ。

ソレが『普通じゃない』事を意識する様になったのは、まだ僕が小さな子供だった頃・・・
兄が教えてくれた『牛の鳴き声を出す毒キノコ』の存在を知ってからだった。


その『牛の鳴き声を出す毒キノコ』は、竹林の中に生えていて、悪い事をした子供にしか『音』は聞こえないという。


でも、しばらくして兄は『あの話はウソだよ。』と言ってくれたけど、それはあまりにも僕が『竹林から聞こえる音』を怖がるから不憫に思って『気遣いのウソをついてくれた』んだよね?



だって僕は見たんだ。



奇妙な音が鳴り響く深夜。
勇気を振り絞り、震える手で部屋のカーテンの隙間から音の正体を見ようとしたら・・・



居たんだ。


髪の毛を振り乱しながら、ゆっくりと竹を揺らす女の人が・・・


優しい兄は、僕が怖がると思ってキノコだと言ってくれたけど・・・


兄さん。音の正体は女の人だったんだね。


でも兄さん、心配しないでね。


もうここ数年は奇妙な音も聞こえません。


もしかしたら、あの女の人は何処かへ行ってしまったのかも知れませんよ。


だからまた実家に寄って下さいね。


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