見出し画像

競馬のおはなし ④レース中のイレギュラーな出来事

最近、競馬に関するツイートをする機会が多いので、適宜まとめることにしました。
ツイートしてないことすら書くようになりました。

⑤レース中のイレギュラーな出来事

前回の記事では普通の流れを記載しましたが、イレギュラーも色々あります。

この記事では、しばしば見られるイレギュラー事項をまとめていきます。

放馬

本馬場入場以降、発走までの間によく起きるのが放馬(ほうば)。

係員や厩務員、騎手などの人間を振り払ってしまい、馬の制御ができなくなった状態を指します。

だいたいは返し馬の時点で起きますが、輪乗り中に暴れだしたり、ゲートインしている最中にゲートをくぐり抜け脱走するケースもあります。

放馬したら、とりあえず捕まえないといけませんが、相手は馬。なかなかすんなりとは捕まりません。
当然競走馬なので傷つけてはいけません。係員がロープを張って行方を阻むのが基本ですが、それを飛び越えて逃げ出すのは、よくある話。
そこまで元気に放馬してしまえば、あとは疲れ果てて立ち止まるのを待つぐらいしか打つ手が無いのですが…。

捕獲したあとは馬体検査(ばたい けんさ)を行います。故障してないか?競走で全力を出せるか?という観点で、現地の係員がチェックします。
上のように元気に放馬した場合は、だいたい体力を使い果たしているので、「放馬による疲労が著しい」という理由で競走除外になります。

競走除外

競走除外は、レース発走前までに何らかの原因(放馬とか)で、レースに出るのが相応しくないと判断されたときに行われる措置です。

除外された馬に関する馬券を買っていた場合、除外が発表された時点orそのレースの確定時点で、除外馬に賭けていた額と同額が返還買い戻しともいう)されます。
除外されていない馬に関する部分・除外はあったものの馬券としては有効の部分(※)は返還対象になりません。

(※)このケースは枠連・枠単のみ発生。
同じ枠に馬がまだいて、買い目で当たりうるパターンが存在すれば返還対象外になります。

落馬

落馬(らくば)=騎手が馬から落ちること。
競走中のルールでいえば、「馬が転倒した場合」または「騎手の身体の一部が地面に触れた場合」に落馬と認定されます。

馬の高さ(肩までの高さを体高といいます)は人間の身長とほぼ同じ。
そこが座面ということは、要は誰かに肩車してもらってる状態から落下してるわけですね。
プロレスでいうと水車落としですかね。プロレス知らないんですが。

打ち所が悪いと死ねそうですね。
実際、打ち所が悪くて騎手生命を絶たれた騎手は結構います。

またレース中に落馬してしまった場合は、後続の馬に巻き込まれることも…

後続の馬そのものが人間に引っかかって転倒することもありますが、引っかかられた人間のほうもたまったもんじゃないですね。

ああ恐ろしい。

ちなみに転倒した馬ですが、もし転倒した際に骨折や脱臼などしてしまったら、ほぼ間違いなく復活できません。

落馬後も馬が元気に走り回っていたら心配は少ないのですが、
転倒した地点で動けずうずくまっていたら、それはもう……

競走中止

競走中止は、レース発走後に何らかの原因で、ゴールが困難になった場合に記録される競走成績です。

たとえば落馬した場合や、騎手が何らかの異常を感じて自主的に馬を止めた場合などが当てはまります。

競走除外と違って、こちらは競走成績に残ります。
競走除外と違って、馬券の返還対象にはなりませんただのハズレです。

拙い騎乗で落馬したり、ゲートが開いた瞬間に転んだりした場合は、それはもう怒号がすごいです。

外枠発走

スタート前にゲートインする枠は、原則として、馬場の内側から馬番号順に入ります。
ただし、ゲート入りする際に大暴れして、周りの馬に悪影響があると発走委員(ゲート付近の係員)が認めた場合、本来入るゲートとは違う、大外のゲートにまわされます。
これを外枠発走(そとわくはっそう)といいます。
暴れた場合以外にも、何らかの理由でその枠の扉が正常に動かない場合も外枠発走になります。

外枠発走にすると決めたとき、壇上で赤い旗を振ってるおじさん(発走委員で一番えらい人)が黄色い旗を振り、メインスタンドの係員や実況席に事実を知らせます。

外枠発走になると、「この馬は内枠だから走る→大外枠になっちゃった」とか「この馬の外には誰もいないから走る→さらに外枠に誰かが来た」というふうに馬券検討が崩れるので、馬券オヤジのヤジが飛びます。恒例です。

カンパイ

>>>🍻<<<

…ではなく。言い換えるとフライングのことです。

スタートゲートの扉は、ちょっと弱めの電磁石で開閉します。
ちょっと弱めなので、馬が突進したらゲートは普通に開きます
これは安全対策のためです。開かないほうが安全じゃん!って言われがちですが、全力で前に突っ込んで開かないほうが骨折とかしそうですからね。

また、騎手たちはスタートのタイミングに合わせて、馬にダッシュの指示をします。
スタートダッシュですね。
馬がよそ見をしてる間にゲートが開いたら目も当てられないので(出遅れといいます)、騎手はこの瞬間に賭けています。

…というのを踏まえた上で、馬がうっかり先に飛び出してしまった場合はフライング。全馬スタートやり直しになります。
これをカンパイと言います。

カンパイか否かの判断は、壇上で赤い旗を振ってるおじさん(発走委員で一番えらい人)が行います。
「あっ!フライング!」と思ったら、おじさんは赤い旗を全力で振り回します。「カンパイ」とも叫びます。

でも、馬、ゲート出ちゃったんで、赤い旗見えないんですよね。
誰かが静止しないといけません。

ゲートからまっすぐ200メートル進んだ先にいる発走委員が静止します。
え?どこにいるかって?

ここ↓

画像1

出典:JRA競馬用語辞典

この人が白い旗を振って静止命令を送ります。

逆に正常スタートだった場合は、この人は全力で逃げます
邪魔ですからね。

静止命令を受けた馬はすぐに徐行して、またゲートに引き返します。

中央競馬に限るとかなりレアですが、地方競馬まで視野を広げると、意外と年に数回起きています。

…で、なんでカンパイ🍻かといえば、横浜の居留地で競馬をしていたころ(跡地は根岸競馬場として知られています)、フライングのたびに外国人が「カンパイ!カンパイ!」と連呼していた、と。
そこに居合わせた日本人が、ああこれはカンパイって言うんだなって納得した、ということです。
この外国人は、「Come back!」と叫んでいました。

カムバックの聞き間違いであるカンパイが、今日まで一切訂正されずに使われ続けてるというのは奇妙ですが、これがカンパイの語源として、最も有力な説です(むしろ異論をほとんど見かけない)。

同着

ハナ先がピッタリ合った瞬間がゴールラインだったら、それは同着(どうちゃく)です。

同着になった馬は全員同じ着順になります。
1着に2頭並んでゴールしたら、その2頭が1着で、その後に入線した馬は3着です。
また同着になる頭数に上限はありません。横並びだから当たり前ですね。

諸々に与える影響ですが、まず1着が同着だった場合、その同着になった馬みんなが優勝したことになります。
優勝馬には賞金が出るのですが、それも等分されます。一気に安くなる。

等分されるのは馬券も同じ。
1着が2頭で同着だった場合、たとえば単勝ならアタリが2頭あることになります。
そうなると、払い戻しはオッズの約半分になると思ったほうがよいです。
(払い戻しや人気の仕組みは別記事にするつもり)

馬券的に一番悲惨というか、カオスになるのは3着に3頭が同着になったとき
10年ぐらいに1回ぐらいのペースで発生していて、直近では半年前にありました。2020年11月23日の阪神12R

1着:8番
2着:18番
3着:1番、4番、11番

単勝:8番(1通り)
複勝:8番、18番、1番、4番、11番(5通り
枠連:4枠-8枠(1通り)
馬連:8番-18番(1通り)
馬単:8番→18番(1通り)
ワイド:(7通り
 ・8番-18番(1着と2着の組み合わせ)
 ・1番-8番(1着と3着の組み合わせ)
 ・4番-8番(〃)
 ・8番-11番(〃)
 ・1番-18番(2着と3着の組み合わせ)
 ・4番-18番(〃)
 ・11番-18番(〃)
三連複:1-8-18、4-8-18、8-11-18(3通り
三連単:8→18→1、8→18→4、8→18→11(3通り

普通は3通りしかないワイドが7通りになりました。
なお、ワイドは「1着と2着」「1着と3着」「2着と3着」のいずれかであればアタリという賭式なので(先の記事では省略しましたが)、この場合1-4とかの「3着と3着」はハズレです。ケチ。
同じく三連複・三連単も、「1着と2着と3着」を当てるものなので、たとえば「3着と3着と3着」を当ててもダメなのです。それは逆に賞金ほしいけど。

審議と降着

ゴールした後の話。前回の記事で「到達順位と着順が変わってしまう例」と書いた例です。

ハナ先が通過した順が到達順位ですが、場合によっては順位がひっくり返ることがあります。

競走中に結果を左右するレベルの重大な支障行為があった場合、ペナルティとして降着(こうちゃく)が行われます。

つまり最後の直線で、先行している馬を幅寄せしたり、勢いよく走ってくる後ろの馬の進路を塞いだりして妨害したりした場合に発生します。

発生基準は、「その走行妨害がなければ、被害馬が加害馬より先着できた」と裁決委員が判断した場合です。
この基準で色々モメるのですが、だいたいのケースは降着にはなりません。
(上の基準に当てはまらなくても、幅寄せ行為や妨害行為はルール違反のため、加害側の馬主や調教師、騎手に対して罰則はあります)

発生基準に照らして当てはまった場合は、加害馬は被害馬の1つ下の着順になり、その間の馬は順次繰り上げになります。

画像2

ちなみにこの基準に当てはまりそうな事案があった場合、審議が行われます。
お知らせ放送が入ったあと、着順掲示板の右上に、青背景で白文字の「審議」という文字がデカデカと表示されます。

その間に審議を行い、後ほど着順変動の有無について審議放送を行います。
そこで降着があったかなかったかが判明します。

ただ"速やかな払い戻し業務のため"、馬券対象である3着まで不問である場合は「3着まで確定」という言い方で確定させることもあります。

ちょっと前までは「怪しい動きがあったらすぐ降着」「降着する先の着順は行為の酷さによって変える」という運用だったのですが、2013年シーズンより厳格化され、ちょっとやそっとじゃ降着にはならないようになりました。
加えて、審議の回数も激減しました。

もっとも、このルールのおかげで、最後の直線での妨害行為以外はほぼ降着にならないため(※)(※※)、公平性に欠けるという話も囁かれます。

(※)たとえば向こう正面で重度な妨害行為があったとしても、最後の直線で十分挽回するチャンスはあるため、被害馬が加害馬より先着できると言いきれない

(※※)加害馬が加害したあと再加速した場合、または加速中に妨害した場合、被害馬の加速度を鑑みると降着基準に適合しなかった、というケースはよくある

失格

降着基準を満たした上で、よっぽど危険な行為を犯したと裁決委員が認めた場合、降着じゃなくて失格になります。

降着のルール変更以前は、馬と馬がぶつかった結果騎手が落馬した場合、かなりの確率で失格という裁決が下りましたが、2013年以降はほぼありえなくなりました。
というか、たぶん起きたことがありません。
(ドーピング等違法行為による失格を除く)

GⅠにおける直近の失格案件は、2012年のNHKマイルチャンピオンシップかと思います。
最後の直線で青い帽子のマウントシャスタが、赤い帽子のシゲルスダチを妨害し、落馬させた事象です。

↑当該レースのパトロールビデオ。
審議案件はパトロールビデオの映像を見ながら判定します。
パトロールビデオとは、というのは別記事で書くつもりです。

ちなみに被害馬のシゲルスダチはすぐに走り去らず、落馬した鞍上の後藤Jのそばから離れなかったことで一躍有名馬に。
2年後の一般競走で予後不良となった際は、ネットでも追悼されたほど。

-----

レース中止・開催中止

競馬そのものが施行不能だと、開催執務委員長(その日の競馬を取り仕切るトップの偉い人)が判断した場合、一部のレース、または未実施のレースをすべて取りやめとすることがあります。

このご時世、新型コロナの関係で開催中止になることはよくありますが、天候による開催中止もあります。

野球などとは違って、ちょっとやそっとの天候不良では中止しないのですが、
・地震に見舞われた
・あまりに雪が深すぎる
・あまりに霧が濃すぎる
・人馬は無事かもしれないが、来場客が安全に見ていられると思えない
 (猛烈な台風(交通機関のマヒ)やスタンド設備故障など)
…というケースの場合は、開催を中止することがあります。

特に雪シーズンである、1月~2月の京都・中山開催は、わりとよく中止になります。

中止になった場合は、中止が決まった時間にもよりますが
・次の平日(おもに月曜日)にやる
・次の週の平日(おもに月曜日)にやる
ということが多いです。

レアケースとしては、「最寄りの高速道路が事故で長時間止まってしまったため、馬運車が到達できず午前中のレースを中止」なんてこともあります。
(記憶では、そんなことがあったはず…漁れなかったけど…)

ちなみに雪といえば我が家はこれを思い出すのですが、↓のレース含め、当日の京都競馬場は全12Rが催行されました。マジかよ。

今でも語り継がれる1996年バイオレットステークス。
実況はラジオたんぱの広瀬伸一アナ(故人)。
何がすごいって、時間という情報だけで大体の位置を予想して伝えられていること。

同一レースの別カメラ(KBS京都視点)。
実況はKBS京都 小崎愃アナ、解説は競馬ブック 中野秀幸トラックマン。
カメラの台数はこっちのほうが多い。

-----

イレギュラーケースとして、わりとよくあるものを挙げてみました。

これ以外にもイレギュラーはありえますが(レギュラーじゃない事態なんて、たくさんありますからね)、とりあえずこれだけ知っておけば9割9分は落ち着いて楽しめると思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?