同じクラスの女子がピンク髪だし舌ピも空いてるし僕のこと好きそうな件について。
憂鬱な月曜日。
新学年が始まって、早2ヶ月。
6月の雨はまるで、僕の心を見透かしたように暗く、降り頻る雫は窓を打ち付け、この教室の雰囲気までも曇らせる。
『おい!聞いてるのか!』
熱血教師の大村先生の声が教室に響き、僕は肝を冷やした。
しかし、叱られているのは僕ではなく、問題児の愛月さんだった。
『そもそもなぁ!校則違反だぞ!そのピンクの派手な髪の毛も!!お前!聞いたところ舌にピアスを開けてるそうじゃないか!指導対象だぞ!わかっているのか!?』
声を荒げる先生に対して、愛月さんはピシッと一言。
『今は令和ですよ。』
そう言い放った。
それを見て僕は『あ、これはダメなやつだ。』と思った。
その瞬間、大村先生はみるみるうちに真っ赤になりさらに声を荒げ続ける。
『何が令和だ!お前!舐めてるのか!大体!生徒個人を尊重するなどという考え方は!私の教師としての尊厳を踏み躙ることだ!!お前!舌を出してみろ!お前の舌にピアスが開いているというのが本当なら!今すぐ職員室で指導してやる!なんなら、お前の親も呼んで…』
一瞬、彼女の顔が窓の向こうの空のように、曇ったのが見えた。
あぁ、また悪い癖だ。
どうせまたひとりぼっちになるのに。
やめておけよ。僕…。
そんな後悔の言葉たちに後ろ髪をひかれながら、僕の足は動き出す。
『せんせ?舌を出せなんてセクハラですわよ。』
そう彼女が言った時
ーパァン。
教室に響き渡る頬を打つ音。その音は愛月さんでなく、僕の頬を打った音だった。
クラスメイトはどよめき、静まり返った。
『お前は…。』
僕は声を振り絞り、伝えた。
『彼女がどんなに、素行不良に見える見た目をしていても、生徒に手をあげて良い理由には…ならない…と思います…。』
情けなく細々とした声だったのが自分でもわかる。
少し冷静になった大村先生が、僕たちに背を向けながら教卓に戻った。
『へぇ、良いとこあんじゃん。』
不敵に笑う愛月さんに背を向けて、僕はまたクラスの端っこに戻る。
僕の顔が熱いのは、きっと左頬の痛みのせいじゃないことを僕だけが知っていた。
端っこでひとりぼっちの僕の日常が、少し加速する気がした。
キーンコーンカーンコーン
授業が終わり、移動教室のためにゾロゾロとみんなが教室を後にする。
僕は、保健室に行くことにした。俗にいうサボりというやつだ。
僕がいなくても世界が回るのは、数式の照明よりも簡単なことだった。
『あら、男の勲章ってやつ?』
保健室のメリィ先生が、僕をいじりながら高笑いしてる。この空間だけが僕に優しく寄り添ってくれる。
『失礼しまーす。男の子来てませんか?
名前は、エーット、なんだっけな…』
何度見ても派手なピンクの髪の毛がひょこひょことこちらを覗いているのがわかった。
『あっ!いた!ねえ!大丈夫!!?
さっきはありがとうね!!君、名前、なんだっけ?』
にへらっと笑う彼女に僕は答える。
『ごだよ。ご。愛月さんこそ、大丈夫だった?』
不思議と声は裏返らず話せていた。
『ご…か。私は星乱!星乱って呼んで良いよ!
そうだっ!』
何かを閃いたようにまた愛月さんは不敵に笑って
『私の舌、ピアス開いてるんだ。
君になら見せてあげても良いけど?』
マスクをずらして舌を出す、愛月さん、いや、星乱ちゃんに奪われたのは、きっと目だけじゃ無かったと思う。
これは、僕のクラスメイトのピンク髪に舌ピアス、どう考えても素行不良の彼女に、誰からも相手にされなかった僕が振り回されるための人生の話。
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