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三笑亭可龍師匠の「幾代餅」を聴く 無筆日記拾弐筆

軽味に独特なテンポが加わった可龍師匠の「幾代餅」に都会的なリズムを感じる

2023年1月21日@らくごカフェ
三笑亭可龍・笑福亭べ瓶ふたり会

石返し 可龍
包丁間男 べ瓶
~仲入り~
幾代餅 可龍

三笑亭可龍師匠の高座くを聴くようになったのは、真打になってからのこと。長らく地元の聖蹟桜ヶ丘でやっている会や、新宿道楽亭の会(ブラック可龍の会)に通っていた。

師匠の高座の魅力は、一貫して噺に軽味があって独特のリズムがあること。ネタが豊富で一見地味な噺でも十分楽しませてくれること、江戸落語にも関わらず都会的でモダーンな雰囲気を感じること、それでいて何より三笑亭という、江戸落語の開祖の一門の芸をしっかり守っていること、だ。

師匠の持ちネタに「今戸焼」という噺がある。18年11月新宿道楽亭での「ブラック可龍」で聴いていて(ちなみにここではネタおろし)それから何回か聴いている。筋は夫婦の噺で、芝居見物に行ってなかなか帰ってこない女房に、亭主が少しばかり焼き餅を焼く、という、きっちり演っても10分かかるかかからないかの小品。

(可龍師匠の大師匠八代目可楽の「今戸焼」)

話中、女房の留守に暇を持て余した亭主が、火鉢の火をおこそうと扇子で火をあおぐ場面があるのだが、これが非常にリズミカルなのだ。無粋にパタパタとあおぐのではなく、まるでジャズドラマーが、ハイハットでリズムを刻むような正確さとカッコよさがある。一方で、ここでの亭主の、惚気とも愚痴ともわからないモノローグは、しっかりとした江戸落語の箍(たが)を守りつつ、夫婦のあいだの機微を絶妙に描いている。もっともこの噺の「芝居見物をしている女房を家で待つ亭主」という設定自体、「替り目」で見ることが出来るような夫婦関係からすれば、都会的でモダンである。

これが、可龍師匠の高座の一番好きなところ。そして今回聴いた噺は「幾代餅」。

ここではまず、マクラで今流行のドラマのこと、若い世代の恋愛事情など、身辺雑記で笑いを取りながら、本編に入ると今日的なクスグリもデフォルメされたやり取りもなく、吉原初心者の清蔵がどのように吉原初体験をこなしていくかを、登場人物同士のテンポよい、描きわけのできた、きちっとした江戸弁で綴っていく。

「幾代餅」は、同名異曲ならぬ「異名同曲」の紺屋高尾に比べれば、講談や浪曲に取り上げられるような、ストーリー性には乏しいかもしれない。その点でいうと、「幾代餅」はある意味、吉原入門マニュアル的な噺とも言える。一方時に「紺屋高尾」の芝居ががった演出に食傷気味になるときもあり、アッサリとして筋書きの「幾代餅」のほうが腹八分目、ちょうど良い時もある。

そんなアッサリとした噺が好きな私は、可龍師匠の高座に非常に魅せられる。

師匠の「幾代餅」はまず、マクラで今流行のドラマのこと、若い世代の恋愛事情など、身辺雑記で笑いを取りながら、本編に入る。突飛なクスグリもデフォルメされたやり取りもなく、吉原初心者の清蔵がどのように吉原初体験をこなしていくかを、登場人物同士のテンポよい、描きわけのできた、きちっとした江戸弁で綴っていく。

そんな可龍師匠の高座を、以下のツイキャスプレミアで聴いて確かめてほしい。会当日の高座を音声にて有料配信しています。聴取料は1,000円、ご購入から1週間聴き放題です。

冒頭の2分半をサンプルにしたものがこちら。事前の音質チェックに御覧ください。


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