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【#ガーデン・ドール】風に刃を乗せて、若葉は散る

前を向いて頑張る少女と、それを見守る事にしたドール



その日は特に予定がない日で、いつもの如くLDKでおやつ用のお菓子を作っていた。
ロベルトさんとも作った事のあるこれは、ヤクノジさんの好物である。そして例に漏れず今日も今日とて、作り進めて残りは焼くだけ。
まだその時では無いので、冷蔵庫に保管してその時を待つ。

ついでに、いろんなフルーツを剥いて一口サイズにカットして盛り合わせる。
オレンジジュースと併せてソファに向かい、いちごをひとつ。

「たまにはお菓子ではなくて、フルーツの盛り合わせもいいですよね~♪」

思わず笑みを零して堪能していると、カタカタと何かが揺れる音がした。
この音にあまり見覚えのないリラはなんだ、と自分の周りを見回す。
と、リビングに飾ってある額縁が揺れていた。

驚いて瞬きした次の瞬間には、一人の少女が立っていた。

思わず額縁に近寄って声を掛ける。
この前が初めましてだったが、確か名前は

「セイさん……?」

自分でも確かめるように呼んで、それに反応してかこちらを向く少女。

「えっと、リラさん……でしたっけ?
こんにちは~!美味しそうなもの食べてますね!」

「この間ぶり、ですね、こんにちは。……ふふ、たまにはフルーツもいいな~と思いまして」

こちらに笑顔を向けてくれた彼女はセイ。なんでも、額縁の中にいる少女、なのだとか。
リラも微笑んでセイをソファに誘導して、彼女の分のオレンジジュースを注いで隣に座る。
前に会ったのは、セイについて情報を集めた時だ。

「あれから、どうですか?
不便なこととか、助けてほしいこととかありませんか?」

オレンジジュースを差し出しながら聞いてみると、セイはありがとうございます、と礼を述べつつ嬉しそうに受け取って飲む。

「あれからまだ気持ちの整理はできてませんが……私にできることをやろうと思ってます!」

「なにか助けが必要なら、いつでも言ってくださいね!」

「それで最近は色んな方に魔術を教えているんです~!リラさんは魔術に興味ありますか?」

「魔術ですか……、今使えるもの以外にも習得したいものはあるので、とても気になりますね…!」

前向きに色々と考えているみたいで安心しつつ、『魔術』と聞いてリラの中の好奇心が膨らんでいく。
今私が使えるのは、二種類のクラス魔法と基本魔法……魔力に自信はないが、知って使える手段が多い分に支障はないだろう。何時如何なる時も大切な人を守る為に、力は必要だと知っているから。

リラは飲んでいたオレンジジュースを机に置いて、セイの方へ身体ごと向く。

「どんなものがあるんですか?」

「ビリビリするのと、シュッてするのと、ガバッてするのと、シュバーッてするのと、ビショビショになる魔術が使えます!
でも私が教えられるのはビリビリするのと、シュッとする魔術の2種類です。どちらか1つだけ教えられます。どちらが良いですか~?」

「びり……しゅ、がば…しゅばー……びしょびしょ…は水ですかね?」

擬音ばかりでイメージがつかなかったのか、オウム返しをしながら確認していく。
なんとなく、シュッが気になりつつも問いかけてみる。

「ビショビショは水ですね!体がビショビショになるんです。シュッてする方が気になるなら、まず実際にどんな魔術か見てみますか~?ここだと危険なので、外に出なくてはいけませんが……」

「なら、外に行きましょう!
実際に見て決めてみたいので…!」

そう言って、リラはセイと寮の外に出た。

+++++

寮から外に出て来た二人。
セイはリラからすこし距離を取って正面に立つと

「それではリラさんは離れて見ていてください。
まずはシュッてする魔術から見せますね~」

と言って手をリラとは違う方へ伸ばす。と、風の刃が宙を切り裂いた。
その光景を興味深そうに眺めて考える様子のリラ。
続けて、ビリビリ、の方を見せてくれるらしい。

「これがシュッてする魔術です。次はビリビリなんですが……その前にビショビショになる魔術を使います」

そう言うや否や、セイの足元がびっしょりと水で濡れ始める。

「それで、こちらがビリビリする魔術です」

告げてから、セイを中心に黄色い光が走る。
あれがビリビリ、恐らく雷の事だろう。

「こうしないと私もビリビリしちゃうんですよ~。どうでしょう?どちらを覚えたいですか~?」

二種類、正確に言えば三種類の魔術を見せてもらい、自分の知らない魔術があるのかと目を輝かせるリラ。
が、ビリビリの説明を聞いて少し怖気付く。

「び、ビリビリは自分も感電してしまうんですね…?!」

色々と自分の中で考え、悩む。
唸っている間もセイはきょろきょろと寮の周りを見回して、風景を楽しんでいるようだった。

そしてしばらくしてから

「私はやっぱりシュッの魔術が気になりますね……、こちらをお願いできますか?」

セイにそう伝える。

「分かりました!では教えますね〜!」

そして、口伝ではあるが扱い方を学ぶ。
座学と実技を組み合わせたようなこの方法に、学び方も色々とあるのだなと頭の片隅で考えながら、言われた通りに頭でイメージをする。
シュッの魔術……風刃魔術を正確に認識できるようになったあたりでセイから告げられる。

「はい、これで使えるようになったと思います!」

「わ、ありがとうございます!
……これで、もっと強くなれそうです!」

確かに自分の中で何かを掴んだような感覚を憶えて嬉しくなる。
他にもないのか、と興味が完全にそちらに向いてしまったリラは興奮気味に続ける。

「ちなみに、ほかの魔術はどんなものなんですか?」

「それではシュバーッてする魔術を見せますね〜!」

そう言うとセイは地面を蹴り、空高くに飛び上がった。
リラは突然飛び上がったセイに驚いて目で追いながら慌てて名前を呼ぶ。が、これがシュバーッの魔術らしい。
そして、そのまま地面に落ちていく……前にセイの姿が消えてしまった。

どうやら額縁に戻ったらしい。

瞬く間に目の前で起こった事実を上手く飲み込めず、落ちる地点で抱き留めようと伸ばしていた両手はただ風に撫でられるだけだった。

「……も、もどった、んでしょうか……?」

しばらくぽかんとした後、先ほどセイが見せてくれた魔術の痕びしょびしょを見て少し頬が緩む。

「また、お話できるといいなぁ」

そうつぶやいて、セイの消えてしまった空中に向かって笑いかけてLDKに戻る。

……戻る前にこっそり、覚えたての風刃魔術を使ってみたところ、ごっそりと魔力を持っていかれてしまい、よろよろとLDKに戻って行った。
その後は作ったおやつを焼く力もなく、大人しくフルーツを食べた事で何とか倒れることを免れたが、ここぞ、という時以外は使わないようにしようと、固く決心したのであった。



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【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん


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