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【#ガーデン・ドール】救えなかった魁星

「私の名前はグロウです。みなさん、先生になって帰ってきました!」

「グロウ先生!よかったです……!」

「ちゃんと言ったじゃないですか、戻ってきます、と」

グロウ先生は優しく私に微笑んで告げた。
それを私は、少し泣きながら笑って受け止める。

そんな幸せな物語が続けばよかったのに。

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B.M.1424 6月1日早朝。

【ガーデンから黒いモヤが飛んでいきました。
マギアビーストの出現が確認されました。
討伐されるまで海周辺が立ち入り禁止となります。】

絶対に泣かないと決めて、休んだ次の日。
朝起きて、通知を見た瞬間から私の視界は定まらなくなってしまった。

『正式な先生になって帰ってきますよ』

その言葉は。

『しおり、大切にしますね。』

その約束は。
もう果たされることはないのだろう。

もしかしたらグロウ先生本人も、どこかでこの結末を迎えると知っていたのかもしれない。
それでも尚、『戻ってくる』と。
その言葉にわずかな希望を乗せて、伝えてくれていたのか。
そして私も、その希望に縋ってしまった。

未来が怖くて、明日が来なければいいなんて思ってしまったりして。
思ったところで時間は残酷にも過ぎていく。
闇を照らす魁星の様な、その温かさは私の中に残っている。

意図的に交流を取らない様にしていた私でさえ、この有様だ。
他のドールたちの心象は想像することすら烏滸がましい。

誰かが前を向かなければ、進まない。
誰かが決断しなければ、始まらない。
役割でもなんでもない、そんな行動を誰かが起こすなら。
正面に立つ勇気を持ち合わせていない"リラ"だけど。
せめてその背中を押せるように。

ただ、今だけは。

「すこしくらい、泣いてもいいでしょう……?」

ねぇ、グロウ先生。
あなたが信じた未来は、どんな世界ですか。
あなたが託した想いは、どんな色ですか。

ただ今だけは、悟られないように。
私は私の周りに結界奇跡で壁を作る。

「私はあなたを救うことを諦めてしまった」

「どうか、許してください」

祈るように手を組み合わせて、魔力の抜けた体は力なく倒れる。
この涙が枯れたら、ちゃんと起きるから。

すこしだけ。すこしの時間だけ。

そうしてただのドールは、目を閉じた。



#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品

【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん


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