【#ガーデン・ドール】俺の物語-負壱-
B.M.1424 7月1日 夜。
孤独になった獅子と仮面の人形が拳を交え、漆黒の髪のドールと緑の髪のドールに世話を焼かれたあと。
俺は一枚の紙を片手に、藁小屋へとやって来た。
目の前にはひとつの巨大な箱ーー名称『PfU-サングリアルS』
決闘を行った報告書を入れると、対価として願いを一つ叶えてくれるかもしれないもの。
八つ当たりに近いことをロベルトにして、それが決闘なのかと問われれば否定したいところでもある。が、もし本当に願いが叶うなら。など淡い期待を抱いてしまう。
居なくなったモノは戻らない。
それが常識と思い込んでいたことが、実際に叶ってしまっている現状。
ただ、それは対価として『大切なもの』を差し出した故のもの。
たかだか紙切れ一枚で叶ってしまう事はない。
そう思っているものの、心の奥底で思ってしまっている事が出てきそうになる。
「……俺が最初に言い出したことだろうが」
自分に言い聞かせるようにして、紙のことなどお構いなしに拳を握りこむ。
そして、俺は目の前の箱に報告書を投げ入れた。
『■■■■を返してほしい』
「……白いスケート靴を、二組欲しい」
時間を止めた俺が願うことでは、ない。
今にも言葉にして音にしてしまいそうな考えと違う言葉を捻りだす。
思わず、誰かの分も含めていることには気付かないふりをして。
ガコン、という鈍い音と共に中身の見えない容器が出てくる。
それを手に取ると中身は液体なのか、少し重さが傾く。
そして、本能的にこれを飲めば分かると理解する。
普段なら不審がって手を出さないであろう品物。それを、俺は躊躇なく開封して、喉に流し込んだ。
この味は、恐らくほとんどのドールが顔を顰めてしまうのだろう。
苦いような、辛いような、甘いような、酸っぱいような。
全ての要素を混ぜ合わせて煮詰めたような刺激のある味。
まるでわざと混乱させるような、そんな味。
そんな事を考えながら、一気に飲み干す。
味は分かる。刺激は分からない。
これっぽっちの物じゃあ、乱れない。
空虚の存在。
なにも、感じない、空い心。
中身を全て飲み切り、入っていた入れ物を縮小魔法を使って縮めて、ふらつく。
左目が熱を帯びたような気がした。
そんなことをしていると、目の前の機械から二枚の紙が出てくる。
恐らくこれを使って購買で目当ての物と引き換えろ、ということなのだろう。
出てきたその引換券に思わず、感情が表に出そうになる。
二枚。二組分。
一つでいいはずのところを、二つ。
くるりと淡い黄色のスカートが映えるように回るのが好きなあいつの分も。
無意識に。俺の中にある思いは。
思わず泣いてしまう。
「…………ふ、は。はは、ははは」
視界がぼやける。
ロベルトに貰った掌底の影響が残っていたのか、はたまた。
俺は泣き声を抑えて、引換券を握りしめながら地面に膝をつく。
温かい両手は俺を包んではくれない。
寒さに震える心に寄り添わせる様にして、握った拳で自分の体を抱きこむ。
からころ、からころ。
鈴の音を響かせながら、俺はこれを部屋のクローゼットに大事に仕舞うんだろう。
交換する時がくるか、否か。
そしてまた開いた穴を塞ぐ場所へと向かうだろう。
からころ、からころ。
音は聞こえない。
【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん
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