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【#ガーデン・ドール】けんか

『今からそっちに行く』

そんな念話が届いて、私は慌てて部屋の片付けを始めた。
読んでいた本にお手製のしおりを挟んでベッドサイドテーブルの代わりにしている棚に置き、ベッドの上やラグの上に置いたり広げたままのノートをささっと整えて机に仕舞う。

「リラちゃん、どうしたの?」

「あ、いえ、レオから念話が届きまして…」

「レオくん?」

「多分、以前貸したレリックについての報告だと思うんですが…」

緑の毛糸で編み物をしているヤクノジさんが、手を止めて近場の本を集めて渡してくれる。
定期的に部屋に来て、ふたりで過ごす時間を楽しんでいるのもあり、今日もそんな一日だったのだが、予想外の来訪予定にばたばたとさせてしまった。
片付けの手を止めずにごにょごにょと言い淀んでいると、持っていた本を渡しにこちらに近付きながら笑いかけてくれた。

「少し早いけど、僕は部屋に戻ろうかな」

「あ……すみません……」

しゅん、としている私のおでこに軽くキスをして、大丈夫だよ、と安心させるように微笑んでくれる。
その優しさがうれしくて、本を持っているのにも関わらず思わず抱き着いてしまう。

「明日、また続きをしましょう!」

「うん。また明日、しようね」

幸せに浸りつつも明日の約束を取り付けて、喜んでいると数回のノックと同時に開くドア。

「おい、持ってきたぞ……、…………なにしてる」

「わっ勝手に入らないでください!?」

「あ、レオくん。……こんにちは、かな?」

「……とりあえず、離れたらどうだ?」

いきなり入ってきたかと思えば、盛大なため息とともに文句を言うレオ。
部屋の主の意見は無視してずかずかと入り込んでくる。
……土足禁止は知っているので靴はしっかりと脱いでいるのは良い子。

ヤクノジさんは抱き着いている私の頭を撫でながらやんわりと離して、自分が先ほどまで編んでいた毛糸とお手本の本を棚に戻すと

「また明日ね、リラちゃん」

と言って帰ってしまった。
せっかくのふたりの時間を取り上げられてしまったことに憤りを憶えて、隠すことなく表情に出しながら、レオの為に紅茶を淹れて出す。
その様子にまたため息をつくレオ。

「……お前が早めに知りたいって言ったことだろうが」

「でも急すぎます」

「今日は何も予定がないんじゃなかったのか?」

「予定がない日はヤクノジさんの日です!」

「知らねぇよ…………」

相変わらずため息ばかりつきつつも、勝手知ったるなんとやら。
ラグの上に胡坐をかいて座り、私から紅茶を受け取って飲む。その様子を見届けながら、自分用の紅茶も淹れてベッドに座る。
少しの沈黙の後、レオがひとつのマギアレリックを取り出して話始める。

「お前から借りたレリックについて、再度確認と報告だ」

「はい、お願いします」

「まず、名前は『M7ライト-イレイザー』。
レリックの内容としては、光を見た者の5分前までの記憶を忘れさせるもの。
で、合ってるな?」

「合っています。そして手に入れたのは、私がこのガーデンに来てまだ間もない頃です」

「んで、だ。リラ自身は対ドールに使ったことはないが、あるドールに貸して一般生徒に使った時の事は聞いたんだな?」

「はい。その時は問題なく忘れてくれた、とお聞きしました」

「よし」

聞いた後、レオは手に持っていたレリックをリラに手渡す。
受け取ったリラはそれを手のひらでころころと遊ぶ。

「で、だ」

「この前のマギアビースト戦での報告、ですね?」

「あぁ。この前出た『双頭魔機構獣』に使用したところ、レリック使用前と同じ行動をレリック使用後に繰り返したのを確認した。マギアビーストにもこのレリックの特性は効くらしい」

「なるほど……場合によっては自陣を助ける動きができそうですね」

「まぁそれを使ったときにカガ……いや、あほも一人同じことを繰り返してたけどな」

「カガリさん?使用前に注意喚起はしなかったんですか?」

「したんだが、あいつは無視してた」

「……どうせレオがしっかり伝えてなかったんじゃないですか?」

「…………」

分が悪いのか手に持っているマグの中身を一気に煽るレオ。
それを見てすこしため息をつく。また言葉の足りない伝え方をしたんだろう、と仮定したが、この反応を見るにそうなのだろう。
このマギアレリックが攻撃に特化したものでなくて良かったと胸を撫でおろす。

しばらく使用感だったり、どんな状況に活かせるかなどを話し合いつつ、手元のマグから飲み物が無くなった頃。

「……こんなもんだろ。そろそろ帰るぞ」

「わ、待って、待って」

と持っていた空のマグを机の上に置いてドアの方へ歩いていく。
慌てて私も持っていたマグを置いて、レリックを片手にレオに近付く。

「まあ、また何かあったら借りるなりしに来る」

「分かりました……」

「……なんだ」

「いえ、その……」

「はっきり言え、なん「レオのばか!あほ!とんちんかん!」……はぁ?」

思いつく限りの暴言をレオに浴びせる私。
突然そんな言葉を投げかけられたレオは当然、怒りを露わにしてこちらをじっとりと睨む。

「突然なんだよ、喧嘩売ってんのか?」

「言葉足らず!一匹狼!えーっと……つ、つり目!!」

「うるせぇ!いくらお前でも怒るぞ!!」

もう怒っているじゃないかとはさすがに言えず、右手に持ったレリックをレオに向けて構える。
距離は手を伸ばせば届く距離だが、不意に顔の前に物が出てきて反応の遅れたレオ。
戦いでそれは命取りだぞ、と思いながらも、持っている物をはじかれる前にライトのスイッチを押す。もちろん目をつぶって。

「おまっ!」

短い抗議の言葉は眩い光に包まれて一瞬にして静寂になる。
目を開いてサッとマギアレリックを背後に隠してレオの様子を伺う。

レオはと言うと、眉間に皺を寄せて怒りを露わにしつつも、何故自分が怒っていたか分からず困惑している様だった。

「なるほど……」

「……あ?…………さてはお前……」

「ありがとうございました!さ、夜も遅いので早く帰った方がいいですよ!」

「……おい、今俺にソレ使っただろ」

「なんのことだかさっぱりです!あ~眠たいなぁ~!!」

「俺の質問に答えろ!」

さっきとは別の意味で怒っているレオを無理やりドアから追い出して

「おやすみなさい!良い夢を!!」

とだけ告げて早急にドアを閉めて、鍵をかける。
向こうから「開けろ!」だの「やりやがったな!」だの文句は聞こえるがスルー。
さすがに夜遅く、眠っているドールも多くなってくるであろうこんな時間にずっと騒ぐ程レオもバカではない。と思う。
レオの怒りの文句を聞きつけたのか、向かいの部屋のドアが開く音が聞こえた。ロベルトさんが出てきたのだろう。

「レオさん?どうしたんですか?」

「……ロベルト、か、いやなんでもない」

「リラ先輩と何かありました……?」

「なんでも……チッ、くそっ……」

「?」

「俺は部屋に戻る。じゃあな」

「?? は、はい、また……?」

と会話をした後、どすどすと荒々しい足音とともに気配は遠ざかって行った。
また今度違う何かでご機嫌取りをしよう、と考えながら、ずっと手に持ってしまっていたレリックを鍵付きの棚に戻す。

「どうかこれを使う機会が来ませんように」

そうつぶやいて、使った食器を洗うためにLDKに降りて行くのだった。
別の日、そのレオに練習と言う名の仕返しをされるのはまた別のお話。



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【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん

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