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【#ガーデン・ドール】俺の物語-漆-

この記録は、俺が『ククツミ』としてきたことの履歴。

思い出。

あいつの為の、俺の我儘。
俺の為の、あいつの我儘。

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部屋に灯りは点いておらず、白く光る月の光だけが俺とノートを照らす。
手元は眩しいくらいに黒が映える様にまっさらで。

俺はそこに、俺を残していく。

B.M.1424 3月27日。
叶うはずのない願いが、俺の大切な二人に叶えられた日。

『約束』を、叶えにいく準備が出来た。
自らの欲を欲して良いんだと、いないはずの神に感謝さえしてしまいそうな気分だった。

B.M.1424 3月29日。
いつもは眺めるだけの景色に、足を踏み入れた日。

『約束』を、守りに来たとあいつに伝えに言った。
心の何処かで『リラを守る』という使命にも似たものが居座りつつも、何かと理由を付けて俺はあいつのところへ向かう。
それが、俺の存在意義だと感じたから。
それが、俺の役割で、我儘だから。

B.M.1424 3月30日。
あいつにはやっぱり『笑顔』が似合うと気付いた日。

前と比べて表情が表に出やすくなり、その笑顔は仮面ではなかったと思った。
気付けば目で追って、気付けば声を掛けて、気付けば隣にいる。
俺は、無自覚を自覚し始めた気がした。

B.M.1424 3月31日。
まだ、不安定だと感じた日。

何があったかは、俺もあいつも分からない。
ただ、まだ不安定で、支えも無くふらふらと歩いているような状況を俺は救いたかった。
悲しい、辛いなら、物理的に距離を置いてしまえばいいと行動するようになった。

B.M.1424 4月2日。
色々と悩みながらも、新しく前を向こうとするあいつの傍にいた日。

俺の根本がそうさせているのか、本能的なものなのか、自分の分からない行動が多いと思った。
夜、リラと作ったクッキーは少し歪で、それでもあいつは喜んでくれた。
その笑顔に俺は安堵した。

B.M.1424 4月3日。
己の力不足を痛感した日。

元より信用などしていない、ここが『空虚』ニセモノの世界と感じた。
握った拳は何処にも叩きつけられず、悔しさに歯を食いしばることしか出来なかった。
腕の中で苦しそうに浅い息を繰り返すあいつを見るのが辛かった。

シャロンが来て、話をして。
俺は、改めて決意した。

B.M.1424 4月5日。
あいつが目覚めて、また笑顔を忘れそうになった日。

俺に出来る精一杯を使って、あいつの笑顔を取り戻そうとした。
連想される服なんて捨ててしまえ。
ただ、この一時でも、気持ちが晴れてくれれば。それだけでもいい。
自分の心のもやもやには気付かないふりをした。

B.M.1424 4月6日。
あいつがまた、傷付いた日。

記録でしか知らなくとも、その傷はしっかりと未だ根付いている。
燻ったままのそれを抱えながらも、あいつは自分意外を気に掛けることを辞めない。
だから、俺は今日もあいつの隣にいる事にした。

B.M.1424 4月10日。
『お守り』をあいつに渡した日。

あいつにとって、安心できる場所を増やそうとした。
俺が今出来ることを全てで、あいつを幸せにしてやろうと考えた。

いつからか、俺は『約束』は口実で、本心から隣に居たいと願っていることに気付いた。
この感情は、不必要バグだ。
そして、俺はこの感情に蓋をした。


ここまで書き連ねてから、さらに続きを書こうとしてペンは止まる。
単純に思い返すのが難しい程、いろんなドールと一緒にククツミと過ごしてきたから。

怪我を隠してお互いに怒りあったりもした。
俺が寝過ごして約束をすっぽかして、怒られたりもした。
部屋でのんびりと過ごしたりもした。

ここから先の思い出は、ククツミの中にあればいい。
ここから先の感情は、何処にも出さない。

俺は開いていたノートを閉じて、机に立てかけてあるいくつかの本の隙間にねじ込んだ。

どうか、ククツミが幸せになれるよう。
どうか、ククツミが笑顔で最期われるよう。

「俺は俺が出来ることを」

一介の欠片しょうどうが、ただのドールになって。
ただのドールが、誰かの■■ナニカになりたいだなんて。

そんな想いバグを抱えるなんて、思ってもなかった。

これは、『約束』には必要のないものだ。




#ガーデン・ドール
#ガーデン・ドール作品

【主催/企画運営】
トロメニカ・ブルブロさん

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