見出し画像

【MTGミステリー】変なフォーマット


これはあるフォーマットのデッキである。

あなたはこのデッキの異常さがわかるだろうか。

おそらく、一見しただけではごくありふれたミッドレンジに見えるだろう。

しかし、注意深くすみずみまで見ると、リストのそこかしこに奇妙な違和感が存在することに気づく。
その違和感が重なり、やがて一つの事実に結び付く。

それはあまりに恐ろしく、決して信じたくない事実である。

これは、しがないMTGプレイヤーである私「非生」が、奇妙なデッキの真実を追う話である。

1.知人からの連絡



3月某日、知人のPさんから
「相談したいことがある」という連絡がきた。

Pさんとは地元のカードショップでプレイするうちに、一時期よくデッキ調整をする仲になった。

Pさんは仕事が多忙となったことで、しばらくMTGを引退していた。
転職を機に時間ができたことから、「MTGを再開するなら今だ」と思ったらしい。

当時Pさんはスタンダード専門だったが、復帰に際してはカードプールを見ても浦島太郎状態だったため、低価格で環境変化の遅い遊び方を探していた。そんな中で見かけた一つのデッキリストが彼の心を強く引き付けた。

Pさんの第一印象としては、なんとなく気味が悪いのでMTG歴の長い私に相談しようと思ったらしい。

カード知識が豊富な99さんという知り合いがいる。
私もこのデッキに興味を持ったので99さんに相談してみることにした。

2.99さんの推理

99さんには前もってデッキリストを送り、後日話し合いをした。
以下、99さんとの会話記録である。

非生:99さん、ご無沙汰しています。お時間を取ってくださりありがとうございます。

99さん:いえいえ、非生さん。ところで送ってもらったデッキリストのことですが…

非生:はい。一見、カードプールの広いフォーマットの平凡なアブザンアグロに見えます。【恋煩いの野獣】や【包囲サイ】といった人気のカードが入っていますし、ところどころ見慣れないカードがあるのが気になるところです。

99さん:私も最初はそう思いました。パイオニアやモダンのデッキかと。ただ、すべてのスペルが定番を外してきているのです。【致命的な一押し】【切り崩し】【流刑への道】・・・これらがないのは違和感があります。

非生:確かにそうですね…デッキに採用されている除去枠の【ドロモカの命令】【ネスロイの神話】は、重さと癖があるように思います。
【群れの渡り】やドローソースの【苦い心理】なども奇妙です。

99さん:百歩譲って、クリーチャーにのみこだわっているとします。
パイオニアやモダンでも稀に見かける【屑鉄場のたかり屋】【茨橋の追跡者】なども採用されていますしね。

非生:では、クリーチャーだけが決まった状態のアブザンデッキということでしょうか。

99さん:それがどうも様子がおかしいのです。マナクリーチャーである【媒介者の修練者】が弱いですし、【放浪する森林】も高い戦闘能力があるもののあまり一般的ではありません。

非生:確かに不思議ですね…ただ、デッキ作成者のカードプール知識が少ないということは考えられませんか?

99さん:私も一度はそう思いました。しかし、2010年の【活発な野生林】から2023年の【加護をもたらす戦乙女】まで年代は広く採用されています。カードプール知識が少ないとは考えにくいのです。

非生:採用動機が見えてこない、ということですね?

99さん:はい。分かることといえば、このデッキが「異常に安い」ということだけです。あまり関係ないと思いますが、ははは。

━━━「異常に安い」、この言葉が妙に心に引っかかった。

非生:99さんでも全貌はわからなそうですか。

99さん:ええ、残念ながら。これ以上私から言えることはなさそうです。

━━━私は99さんにお礼を言い電話を切った。



再びデッキリストに目を落とす。

旬を過ぎた強力クリーチャー
謎のスペル
謎のクリーチャー
タップイン中心の土地
・・・そして、異常な安さ

「適当にデッキを作った。」


本当にそうだろうか?
デッキ自体は明確な目的をもって作られたように感じられる。

その時、ある憶測が頭に浮かんだ。荒唐無稽な憶測。でも…
もしかすると、このデッキを作った人間の目的は…

3.レアリティの偏り

私は再び99さんに電話をかけた。


非生:もしもし、99さん。たびたびのお電話すみません。

99さん:いえ大丈夫ですよ。あれから何か気づきました?

非生:偶然なのかもしれません。このデッキ、基本土地以外はコモン・アンコモンが一切入っていないんですよ。

99さん:え、本当ですか!? 今手元にリストを出して確認します。…本当だ。こんな偶然…あり得ない。

非生:そんなにあり得ないことですか?

99さん:ええ、MTGはレア・神話レアの種類が最も少ないわけですから、カードパワーの差はあれどコモン・アンコモンを採用しないということはそう起きません。

非生:現に99さんがおっしゃっていた軽量除去は軒並みアンコモンですからね。じゃあ、単なる金満デッキを組みたかったということでしょうか。

99さん:いえ、先日お伝えした通りこのデッキは異常に安いのです。レアリティを上げながら安く抑える…行動原理が全く分かりません。

非生:もしかして、そういったフォーマットがあるのですか?

99さん:私は知りません。ただ、体を見られたくないマッチョのような倒錯性には興味をそそられますよ!
私のほうでもう少し調べるので、後日ご連絡いたします。

━━━興奮した様子で99さんは電話を切った。

99さんの最後ののめりこみ方は、どこか狂気を感じさせるものであった。
彼があんなことになってしまうとは、この時の私には想像すらできなかった。

4.非公式フォーマット

あれから一か月がたち、99さんから電話が来た。

99さん:非生さん!ついに分かりましたよ!

非生:あのデッキのことですよね。進展に興味がありますので、聞かせて頂きたいです。

99さん:あのデッキは「パワー99」という非公式フォーマットのデッキでした。

パワー99というのはですね。レガシーフォーマットの一種なんです。
基本土地以外はレア・神話レアの限定構築です。

ただし、wisdom guildのトリム平均価格が直近の9/9以降に99円以下になっていることが使用可能な条件です。いわゆる安レア限定ですね。

カードプールの調査が難しいと思うのですが、検索ツールの充実や、過去の大会で入賞したデッキ情報も書かれたwikiで色々と情報収集が捗って最高ですよ。

便利ツールの紹介は、パワー99のアイドルである九十九パワ子さんの固定ツイートが参考になって、今や私もパワー99に病みつきですよ!


非生:え、めっちゃ早口やん怖

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?