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気息

著:高橋弥七郎

 緑のクラン《jungle》のアジト、通称『秘密基地』は、戦闘訓練にはもってこいの場所である。都心地下の放棄された取水施設は、天井が見上げねばならないほどに高く、太い柱が規則的に林立して、おまけに薄暗い。
 この単調な構造を使ってどう戦うか、まるでチェスのように思考するのは、五條スクナの得意とするところだった。しかしそれでも、
(ほんのさっきまでは押してたのに)
 依然として、御芍神紫との実力差は縮まらない。
(なんで刃を合せたら消えてんだよ、わけ分かんねえ!)
 柱の陰で歯噛みしつつも、愛用の棒から刃を消し、息を潜めるという、最低限の隠蔽は行っている。身動ぎすれば、すぐにでもあの掴み所のない、流れるような斬撃が襲いかかってくる……そんな確信があった。
(いつも俺が仕掛けてやられてるもんな……今日は逆に、向こうに仕掛けさせてやる)
 地蔵地蔵、と自己暗示のように念じる。
(たしか、隠れるときはキソクをタツ、だっけか)
 ついでに、いつぞや紫が口にした心得を付け足した。意味は全く分かっていないが、鋭い少年は、それがどういうニュアンスで語られたのかを勘で把握していた。
(よーするに、なにもかも静かにする、ってことだろ)
 すると呆気なく、
「あら」
 紫の声が聞こえた。こっちのキソクを見失った(?)んだ、という喜びが、最初の一瞬だけ過ぎった。そこからは一転、戦慄が全身を支配する。
(こ、この柱の裏にいる!?)
 密かに忍び寄っていたのか、それとも最初からそこにいたのか、とにかく声は真後ろから聞こえた。あっという間に、思考が回転を始めてしまう。
(どうする、右から回るか、左から回るか、それとも別の柱に――)
 その迷いに猛烈な殺気をぶつけられて、
「――っ!!」
 思わず反射的に構えた真反対側、即ち背後から、刀の切っ先が突き付けられていた。
「はい、おしまい」
「っ、っ……ちっくっしょおおおおおおおおーー!!」
 対照的な二つの声が、大空洞に響いた。

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4,237字

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K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。

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