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姫君への贈り物

著:宮沢龍生

 デパートなどの大規模な商業施設では経営セオリーとして比較的、集客力の高いレストラン街を最上階に据えることが多い。そこから客が下に降りていく間に新たな購買が発生する〝シャワー効果〟を期待しているのだ。
 ところが鎮目町にある百貨店は少し変わっていて、そのもっとも重要な最上階である六階を女性向けのファッションや雑貨などの店が占めていた。
 エスカレーターで一階から上がっていくと五階のレストラン街を境目に、他の階とは全く雰囲気、明るさ、華やかさが異なるフロアが出現する。アロマキャンドルやソープなども販売されているため、辺りを漂う匂いさえ違っていた。
 この配置は〝男性の目を気にせず商品を選べる〟と女性客にはおおむね好評で、やり手女性オーナーの意向であるとも、同業他社との差別化を計った経営陣の戦略であるとも言われている。建物内には各階に男女用のトイレが設置されていたが、六階に限っては男性用がなく、女性用トイレが二箇所存在する、という女性客偏重ぶりだった。
 そのため別に〝男子禁制〟と注意書きがある訳でもないのだが、最上階にはほとんど男性客の姿は見受けられず、たまにいてもやや居心地が悪そうな顔をした女性客の付き添いばかりだった。
 その百貨店最上階を今、見慣れぬ珍客が訪れていた。上りのエスカレーターから完全アウェイの未踏フロアへと次々と降り立ったのは鎮目町に本拠を持つ武闘派集団、吠舞羅のメンバーだった。
 硬派な雰囲気を漂わせた強面の彼らは可愛さとカラフルとファンシーが入り交じるフェミニンな空間に一瞬ひるんだ表情をしたものの、すぐに不敵な笑みを浮かべたり、気合いの声を上げたりして、それぞれミッションをコンプリートするべく散開していった。
 彼らの目的。
 それは吠舞羅の紅一点、櫛名アンナへバレンタインデーのお返しをするためだった。それもただばらばらにギフトを購入するのではなくて全員の意思をまとめた一品のみを選んで贈る、という条件があった。

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3,355字

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K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。

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