著:あざの耕平
リクエスト:八田伏見が小洒落たバーに行ったお話
「ったく。なんだよ鎌本の野郎。最近つき合い悪くねえか?」
一軒目で早々に引き上げた鎌本に、八田はグチグチと文句を言った。明日早いという事情は聞いている。とはいえ、終電まではまだ時間があるのだし、もう一軒ぐらいと思っていたのだ。
正直、まだ少し飲み足りない。いつもなら草薙のいる《HOMRA》に戻るところだが、生憎と本日は休業だった。
「仕方ねえ。たまには独りで飲むか」
そう思った矢先、小さな看板が目に入った。どうもバーらしい。地下に降りる階段の先に、重厚な造りのドアが見える。
とはいえ、さすがにこれは敷居が高いぞ、と八田は苦笑いを浮かべた。ただでさえ慣れない独り飲みだ。カジュアルなチェーン店か、気安い居酒屋で十分だろう。そう思って通り過ぎようとしたのだが、ふと足が止まった。自分を残して先に帰った鎌本の顔が脳裏をよぎったのだ。
鎌本とはどうせ明日も会うし、別れたあとのことも聞かれるだろう。そのとき、チェーン店や居酒屋で独り酒を飲んで帰ったと答えるのは、少しばかり癪に障る気がした。目に付いたバーで軽く飲んで帰る。その方が様になるというものだ。
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