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アイドルK短編「雪と炎」

著:鈴木鈴

 この土地は、冬になるとまばゆいほどに白くなる。
 空からしんしんと降り積もる雪が、大地のすべてを染め上げるからだ。大人たちは除雪作業にかかりきりになり、子どもたちも牛や馬の世話で忙しくなる。雪が降っているあいだは外で遊ぶこともできず、勉強くらいしかやることがない。ゆえに、この土地の子どもたちは冬になると憂鬱になるのが常だった。
 ソフィは、その数少ない例外だった。
 彼女は雪が好きだった。降り積もる雪を見るのも好きだし、その無音の音を聞くのも好きだ。誰も通ったことのない新雪を踏みしめて、家の近くの林を散歩するのが、ソフィの日課でもあった。雪の衣をまとった木々のあいだを歩いていると、まるで自分が冬の精霊になったような気がして、心が高揚するのを感じた。
 だから、『それ』を最初に見つけたのもまた、ソフィだった。
『それ』は最初、木の根元にこんもりと盛り上がった、雪の塊のように見えた。なんの気なしに横目で通り過ぎようとしたとき、雪のあいだから赤いものが見え隠れしていることに気づいた。
「……?」
 ラズベリーかとも思ったが、毎日散歩しているソフィは、ここに果実など生らないことを知っている。興味本位で近づき、まじまじと観察すると、正体がわかった。
 髪の毛だった。
 ただでさえ大きな目を丸くして、ソフィは驚いた。彼女もまた、学校では『レッドヘッド』とからかわれる赤毛のたぐいだが、それよりもさらに鮮明な、真紅に近い赤髪だった。
 手を伸ばし、引っ張ってみる。
「ん……」
 驚くべきことに、雪の塊がうめき声をあげた。
ソフィの目の前で、ゆっくりと雪の塊が崩れていった。その中から現れたのは――赤い髪を持つ、ひとりの男だった。
男は眠たげな目でソフィを見返し、くあ、とあくびをした。それから首を回し、太い声で言った。
「……よく寝た」
 ソフィは反射的に、こう訊ねた。
「お兄さん、死にたいの?」

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3,819字

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K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。

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