見出し画像

限定王権戦記「相席1999」

著:鈴木鈴

「おい! なにしてる!」
 叫んで、塩津元は河原の斜面を駆け下りた。
 自分と同じ年頃の少年たちが、橋のたもとで揉み合っているのを見たのが、そのきっかけだった。ただ不良同士の殴り合いというだけなら放置していただろう。馬鹿のケンカにくちばしを突っ込むほど塩津もヒマではない。それでも駆け出したのは――どう見ても、集団でひとりを袋だたきにしているからだった。
 そういうものを見過ごしておけないというのが、塩津元という少年の性分だった。
「あァ? んだ、テメェ――」
 こちらを振り向き、威嚇したリーゼントめがけて、提げていたボストンバッグを投げつける。砲弾のような勢いのバッグを顔面に受けて、リーゼントはのけぞりながら後ろ向きに倒れ、その脇をすり抜けて塩津は茶髪に組み付き、
「せァッ!!」
 気合い一閃、自分の額を思いっきり相手の鼻っ面にたたき込んだ。
 茶髪は鼻血を噴き出しながらもんどり打ち、塩津は大きく息を吐き、
「なんなんだよ、テメェはよ!?」
 後ろから、思いっきり殴られた。
 意識は飛ばさなかったが、ぐらついた。角材か鉄バットか、ともかくもなにかしらの凶器に打ち据えられたのだろう。塩津は草地の上に手を突いて、ほとんど本能的に横に転がった。湿った土をなにかが叩きつける音が、耳元ほんの数センチのところから聞こえてくる。
「囲め、囲め!」
「こいつもやっちまえ!」
 後悔はしていなかったが、判断ミスをしたとは思った。殴り込む直前に見えた敵の数は、5人か6人か――最初のリーゼントが起き上がらなかったとしても、まだ3人以上残っている。そして、超能力者でもない限り、3人をまともに相手取って倒せるはずがない。
 雨あられと降ってくる拳や靴底に耐えながら、塩津はぎらついた目を彼らに向け、
「ぐあっ!?」
 敵のひとりが、悲鳴をあげながら吹っ飛んだ。
 なんだ――と思って見ると、最初に彼らに袋だたきにあっていた少年が、立ち上がって構えていた。その手に持っているのは、塩津がいつも握っているのと同じ――剣道の竹刀だ。
 坊主頭に、強気なつり目。小柄な体躯をやや前傾気味に沈めている。
 その姿を見て、ピンと来るものがあった。
 が、不良たちはそんなことには構ってくれない。塩津を痛めつけるのをやめて、彼らは少年に向き直った。
 最初に塩津が伸したリーゼントも、立ち上がって敵意に満ちたまなざしを少年に向け、
「あがッ!?」
 その胴を、塩津は背後から打ち据えた。
 悶絶し、リーゼントは河原の草地に転がる。それを一瞥して、塩津は他の敵に向き直った。
 彼の手にあるのは、敵から奪った角材だ。『握り』のところが包帯で補強されている。本来ならば触れるのも忌まわしい凶器だが――贅沢は言っていられない。
 少年が、ちらりと塩津のことを見た。その瞳に、理解の色が宿る。向こうにも、ピンと来るものがあったのだろう。
 だが、話はあとだ。
 今は、こいつらを叩きのめすのが先決だ――!
「「おおおッ!!」」
 塩津と少年の喉から、同時に迸った雄叫びに、敵は目に見えて浮き足立った。

ここから先は

15,307字

KFC/KFCNサルベージ

¥300 / 月 初月無料

K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?