著:高橋弥七郎
リクエスト:ヒンメルライヒ号と御柱タワーから見える星または月
佳月を空に認めた時、二人の《王》は互いの話を思い出す。
研究所を兼ねた教会の前で、彼らは冴えた月夜を見上げていた。
アドルフ・K・ヴァイスマンは、視線を月に据えたまま、首をグリグリ回している。どうやら、目に映る凹凸模様の印象を変えようと試みているらしい。
(仮にも『天才』と呼ばれる科学者のすることか)
そう、國常路大覚が呆れていると、先に聞かせた御伽噺の感想が来た。
「竹から生まれたお姫様が、貴族たちの求婚を断って月に帰っちゃう、かあ……日本人ってのは随分と浪漫的なお話を考えるんだね」
要約された内容に、物堅い男として気恥ずかしさを覚えた大日本帝国陸軍の中尉は、もっともらしい解説を試みる。
「姫が地上に落とされたのは贖罪のため、と伝わっている」
「落とされた……つまり、地上は流刑地みたいなもの、ってこと?」
「俗世は穢土とも言うからな。対して月、即ち天空は浄土、という考え方だろう」
「望遠鏡で拡大して見れば、一面の荒れ地なのにねえ」
言いつつ、ヴァイスマンは両掌で筒を作って、視界一杯に月を捉えた。
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K Fan ClanおよびK Fan Clan Nextの小説等コンテンツを再掲したものです。
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