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グラウンド・ゼロ fragments 03

『Children』

著:来楽零

 初めて中学校の制服を着て出かけた先は、入学式ではなく両親の葬式だった。
 湊速人・秋人兄弟は、桜がほころび始めようとする三月の後半、《セプター4》の屯所で行われた隊葬式典に参列した。
「抜刀。捧げ、刀!」
 そう号令をかけたのは、速人と秋人にとってもなじみの人、塩津元だった。真面目で世話焼きな親戚のおじさん、といった立ち位置だった塩津の、《セプター4》副長としての声を不思議な心地で聞きながら、二人は最前列に用意された遺族の席で、棺を見つめていた。
 速人と秋人の両親、湊速俊と秋緒の遺体の顔は綺麗だったが、体は白い布に覆われていて見せてはもらえなかった。《煉獄舎》との戦闘によって傷ついているのだろうことは理解していたし、両親がどんなふうに戦ってどんなふうに命を落としたのか、その痕跡だけでも確かめたい思いはあったが、「見ないでくれ」と懇願するように言った塩津の顔がつらそうだったので、二人は黙って引き下がった。
 式の間、速人も秋人も涙は流さなかった。頑是なく泣きわめくようなことはこの後のことを考えれば得策ではなかったので、ただ二人で肩先をくっつけて、わずかに伝わる体温を共有しながら静かに両親を見送った。
 全てが済むと、速人と秋人は塩津に頼み、《青の王》羽張迅との謁見を求めた。そうすることは、参列前から二人で話し合って決めていたことだった。
 塩津は複雑そうな表情を浮かべたが、二人の求めを拒否することはなかった。二人が羽張に憧れを抱いていたことは塩津も知っていたので、両親を失った気の毒な子供たちに少しでも報いようと思ったのかも知れないし、あるいは両親を死なせるような作戦を決行した羽張になんらかの恨み言があるのならば伝えるべきと思ったのかもしれない。塩津はそういう人だった。
 塩津に連れられ、屯所の本棟の建物に踏み入れた。すれ違う隊員は、兄弟の姿を見ると足を止めてお悔やみの意を込めて目礼してくれた。
 司令執務室に入ると、窓辺に立って外を見ている羽張迅の姿があった。
「羽張。秋緒と湊の息子たちだ」
 塩津にそう声をかけられ、羽張は窓際から離れると速人と秋人を真っ直ぐに見た。
 悲しみも怒りも後ろめたさもない、目の前にあるものの本質をただ正面から見抜くような羽張の瞳は二人をいくらかたじろがせた。ここに来るまでに二人に向けられた隊員たちからの目とは明らかに違う、両親を殺された子供たちに向けるにはふさわしくないほどに曇りのない晴天のような目だった。
 だが速人と秋人は、これが両親が信じて命を預けた人の目なのだと思った。
「僕たちを、青のクランズマンにしてください」
 計ったわけではなかったが、速人と秋人の声が綺麗に重なった。
 羽張はほのかな微笑を浮かべて二人を見ていたが、連れてきた塩津の方が目を剥いた。
「お前たち、何を言っている!」
「検査では、僕たちも異能適性があると診断されています。素質も資格もある」
「隊員になる動機も十分だと思います。両親の遺志を継いで戦う。両親を殺した敵を討つ」
「お前たちはまだ子供だ!」
「子供じゃない」
 二人の声がまたそろう。
 塩津は一瞬だけ呑まれたような顔をしたが、すぐに表情を険しくして頑として二人を見据えた。
「ダメだ。俺は、秋緒たちの忘れ形見であるお前たちを守る義務も、副長としての責任もある。お前たちの後見人として、お前たちを死地に行かせるわけにはいかないし、《セプター4》の副長として、義務教育中の児童を隊に入れることを認めるわけにもいかない」
 塩津が速人と秋人の前に立ちふさがるように仁王立ちになって言った。二人は強く抗弁したが、塩津が折れる気配は少しもなかった。
 羽張は、自分の前にやってきて言い争いを始めた子供たちと副長の姿を、黙ったまま澄んだ瞳で見つめていた。

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15,816字

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