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SIDE:GOLD 04-1

第四章 イクとビリビリ団

著:高橋弥七郎


【浮浪児】……両親や保護者を持たず、定住もしていない子供。第二次世界大戦下の日本では、戦火によって肉親を失い、家を焼け出された戦災孤児が多数生じた。この内、行き場を失った子供の殆どが住居もない浮浪児となった。戦中、戦後とも彼らの生活は困窮を極め、犯罪行為に手を染める者も少なくなかった。

 数日前の騒ぎなど忘れたかのような賑わいを見せる『かぎろひ商業組合』のマーケット。その奥まった空地では、大熊玉太郎の仕切りで賭場『やくも』の再建が行われている。
「野郎ども、開帳の時間までには仕上げっちまうぞ!!」
 どこまでも太い怒鳴り声が、置かれた分厚い看板までも震わせた、
 再建、と言っても本格的な造作ではない。賭場など、人が集える広ささえあれば用は済む。バラックに毛が生えた程度の家屋をでっち上げる、ありあわせの突貫工事だった。もう何代目なのか誰も覚えていない新生『やくも』は、早くも骨組みが出来上がり、屋根と壁を建て付ける作業に入っている。
「分かってまさあ、大隈の兄ぃ!」
「こちとら親分と姐御の御陰で、柱ぁ立てんのも屋根ぇ葺くのも慣れっこよ!」
「聞こえるとこで言うなよ、やり直しになっちまう」
 立ち働く荒くれ共は、威勢の割に効率も手つきも悪いが、雰囲気だけは明るい。多くが得体の知れない化け物を目撃しながら恐怖を引きずっていないのは、その日その日を生きているだけのお気楽さと、なにより「次は殴り倒す」と断言した親分への信頼ゆえである。
 屋根の上から壁の前まで、ながら作業の声が飛び交う。
「青服は、まだ横丁の門前を見張ってやがんのかね」
「ああ、相変わらずダンビラ提げて、行ったり来たりしてるぜ」
 彼らが青服のおあねえさんから聞いたところによると、強い力を持つ親分と青帽子がぶつかったせいで、化け物は現れた。ゆえに、両者痛み分けで手を引けば恐らくは安全、ということらしい。その説明通り、諸々の出来事で白けた親分はあっさり引き上げ、青帽子もくるりと背を向けて立ち去る結果に、なるにはなった。当分は青服との出入りも、引いては怪物との再会もなさそうだった。どうやら平和・・が訪れたようである。
 そんな結果の捉え方も、人それぞれだった。
「へっ、あれからバケモンも静かだってえのに、毎日ご苦労なこった」
「用心しとくに越したこたねえさ。青服だって同じ気分だろうよ」
「んだぁ? 手前ぇ、ビビってんじゃねえだろな」
「あぁん? 今なんつった」
 声のやりとりに飽き足らず、腕まくりして額を突き合わせた二人の頭を、
「誰がビビ痛でっ!?」
「んがっ!?」
 早くも大隈の拳骨が立て続けに襲った。太い体躯で日光を遮り、その影の下で頭を抱えて蹲る二人へと、ドスの利いた声を降らす。
「口より手ぇ動かしやがれ、与太公ども」
「へ、へいっ!」
「すいやせんっ!」
 大隈は這々の体で散る二人を、次いで作業全体を見やった。
(今日の開帳前にゃあ元通りだな)
 考えてから、喉に小骨の刺さるような引っかかりを覚える。
(本当に、元通りになるもんかね)
 化け物や青服との揉め事、それだけの話ではない。
 妙ちきりんな《王》だのなんだの、気風きっぷ良く歩いてゆくのに邪魔なお仕着せが、自慢の親分に覆い被さったように思えて、大隈は面白くなかった。

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