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エイブラハムの獲得意図から見えるアーセナルのFW像とは

急に噂が挙がってきた。ラカゼット退団と引き換えにチェルシーのエイブラハムを獲得するという報道だ。果たしてエイブラハムの獲得意思は飛ばしなのか、はたまた本気なのかを調べてみた。

孫氏の兵法もあるが『敵を知り己を知れば百戦して危うからず』とあるようにまずは何事も客観的に自分を知ることから始めてみる。


というわけで今シーズンのアーセナルのスタッツを見ていくと

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ここから何が分かるのかとも言われそうではあるが、今シーズンのアーセナルの明確な課題は得点力である。その内訳を見ていくと


☑ゴール数→9位
☑ヘディングゴール率→13位
☑コーナーからのゴール率→16位
単純にゴール数を増やすといっても色々な方法が挙げられる。ストライカーをテコ入れする?2列目の出し手の質を上げる?ビルドアップを改善して前線の人数を増やす?といった具合のように単純にFWの選手を変える事がすべてではない。それらを踏まえたうえで上記の数値を見ると分かるだろうが空中戦やセットプレーからのゴールが圧倒的に少ない。 
これはどれぐらい少ないのか、今シーズンの上位チームのスタッツと比較すると分かりやすいだろう

この記事の中にあるリヴァプール、チェルシー、シティと比較すると分かりやすい。まずリヴァプールだが

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☑ヘディングゴール率→5位
☑コーナーからのゴール率→9位
これは分かりやすい。リヴァプールの最大の魅力は言わずもがな前線の強力な3枚の質の高さであるが、それを下支えするようにクロスからのゴール割合が多い。両WGであるマネ、サラーの驚異的な突破力と両SBからの高精度なクロス戦法も併せ持っていることだ。

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続いてはチェルシー
☑ヘディングゴール率→10位
☑コーナーからのゴール率→4位
チェルシーはアーセナルとほぼ同じのゴール数を挙げたチームとして参考になる部分が大きい。というのもアーセナルとゴールの傾向が明確に違っており、アーセナルは基本的にオープンプレーからのゴールが多かった(セットプレーからのゴール率の少なさから考えても)のに対し、チェルシーはセットプレー面でのゴール割合が高く、オープンプレーからのゴールは明らかに不足していた。言い換えるならば、単純にFWのメンツを替えて得点力を挙げれば良い話である。なのでチェルシーはハーランドに躍起になっているのだと考えられる。

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そして最後にシティだが
☑ヘディングゴール率→15位
☑コーナーからのゴール率→14位
これだけを見ると『アーセナルと同じじゃんか!!!』と思われるだろうが、ゴール数に絶対的な差がある。つまりシティは空中戦や、セットプレーといった非オープンプレーからのゴールを求めずとも、得点を量産できる質の高さを保有しているということだ。


以上のクラブを見たうえで改めてアーセナルを見てみると…

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どうだろう。ゴール数、セットプレーの両面で不足していると言わざるを得ないだろうか。そもそも今季のアーセナルはクロス数もリーグ5位であり、シティと同じように保持制圧での遅攻がメインでも攻撃の方向性はクロス主体であったのは否めない。仮にだが、このクロス数を来季から極端に減らして前線の流動性で勝負するというのもファン感情としては面白いの一言に尽きるのだが、それはやっぱり難しい。前線の質は部分部分でシティに負けていない面子がいるとしても層がまるで違う。そうなれば現実的な選択肢としてクロスを鎮められるFWを狙うのは理にかなっていると言えるのではないだろうか。


何となくまとまったところで現状のアーセナルのFWの前線の2選手
オーバメヤン、ラカゼットについて数字を交えながら見ていきたい。

まずはオーバメヤンだが

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明確にシュート特化型であり、空中戦は身長の割にあまり好まない。それを表すようにオープンプレーでの空中戦の数値も41(平均50)と高くない。これは非常に分かりやすい。振り返ってみても空中戦でのゴールはそこまで印象にない。そして何より『不調だった』の一言に尽きる。それでも二桁得点を挙げてくれたのは流石だとは思うがあれだけのチャンスを外したとなると、ファンからの印象がやや懐疑的になるのも否めない。また年齢も32と快速アタッカーとしてシーズンをフルで戦うにはどうしても体力面での懸念も生じてくるだろう。

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そしてこちらはラカゼット。オーバメヤンと全く違うポイントとしてはシュート意欲の低さである。オーバメヤンが87であったのに対して彼は24である。そしてオーバメヤンと同じように空中戦の数値が低かった。そしてシュート意識の低さに関しては言及するまでもないだろうが彼の最大の持ち味は汎用性の高さだ。背負えるし、繋げる、守れるといった従来のCF像とはかけ離れた存在の選手である。今までも散々助けられてきたが恐らく今シーズンの彼は数字以外の貢献度合も含めればアーセナルでのキャリアハイの活躍と言えただろう。ビルドアップに降りてきてゲームメイクも出来れば、チームでも得点王と結果でも示せたシーズンであった。

しかしラカゼットが万全かと言われるとそれは不透明。上記の記事を読んで頂くと分かるが、今期のラカゼットの好調振りは間違いなく決定力が向上したことに尽きる。しかし上昇した決定力と引き換えに彼のプレーエリアは年々広がっており、CFというには配置が低すぎることが課題。これはもちろんビルドアップを助けていた面々があるので当然のことだが、事実アーセナルのゴール数はプレミアリーグ9位である。上位に行くためには絶対にゴール数を増やさなければならない。

昨日ツイートした内容だが、ラカゼットは基本的に期待値通りの結果を出すのに対しオーバメヤンは期待値以上の結果を出す。だからといってオーバメヤンがラカゼットより優れていると言いたいわけではなく、そのオーバメヤンが不調だったこと、ラカゼットもアーセナルでのキャリアハイとなった17-18シーズンでも14G(内2PK)だったこと。そしてどちらも30代を超えてくることを鑑みると、新たなCFの獲得に乗り出すのは理解できると思われる。


簡単にではあるがオーバメヤン、ラカゼットの2人を数値的に振り返ってみたが、共に共通しているのは空中戦の弱さである。

先述したように今シーズンのアーセナルのゴール数は少なく、内訳を見ても空中戦からのゴールが少なかった。その中で噂に挙がってきたのがエイブラハムだ。

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彼に関して目立つのはペナルティエリア内でのタッチの多さと、シュート意欲の高さであり、いわゆる純粋なボックス内でのストライカーである。また空中戦の数値も85とプレミアリーグのCFの中でもトップレベルの数値である。

☑ボックス内でのタッチが多い
☑空中戦が強い
この上記の特徴はオーバメヤン、ラカゼットには無いものである。


しかし普段からsmarterscoutを見てる人はもう分かっていると思うが、攻撃数値が25と非常に低いのが気になるだろう。
しかし昨シーズン(19-20)を見てみると…

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攻撃数値は80とリーグでもトップレベルの数値であったことが分かる。
ではこの数値の減少は何なのか…

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直近2シーズンのスタイルを見る限りではそこまでの変化は見られない。しかしプレーエリアを見ていくと

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今シーズンは明らかにサイドに流れる場面が増えているのが分かる。
エイブラハムの良さを引き出すにはサイドに流れることをさせずに中央エリアで軸となる方が良いという前提で考えていくとスミスロウとの補完性も合いそうだ

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こちらはスミスロウのプレーマップである。一目瞭然ではあるがスミスロウはトップ下にも関わらず、中央ではほぼプレーをしない傾向がある。サイドに流れて中央のスペースを作ることに長ける彼にとってのチームの弊害は当然だが、中央の軸(ハブ)が不在になること。そこに中央エリアでのプレーを好むエイブラハムが入るとなれば中央に起点も出来るし、スミスロウは従来のプレーを引き出せるといった具合で、エイブラハムとスミスロウの関係は当てはまりそうな気がする。

ただ、ラカゼットが一手に担っていたビルドアップへの関与に関してはエイブラハムが同じ水準で出来るとは思えない。しかし加入が決定したボランチ、サンビ・ロコンガの持ち味は低い位置からの推進力であり、加入間近となったベン・ホワイトの持ち味も同じである。つまりは昨季の問題点だった、後方の重さは21-22シーズンに関しては少なからず解消される可能性が高いと言えるのではないだろうか。保持での制圧を目論むアルテタアーセナルは、ビルドアップ面でのCBの出し手の質を上げ、中盤の選手には配球力に推進力をプラスした選手を配置することによってチームのプレーエリアの引き上げを狙っているものと思われる。

もしそれが実現するとなれば、先述した通り中央エリアを主戦場とするエイブラハムは今のアーセナルが求めている人材そのものと言えるだろう。

忘れてはならないが、エイブラハムは20-21のチェルシーに於いてリーグ戦のチーム内得点王である(1位のジョルジーニョは全てPKによるもの)
トゥヘル招聘後、彼は明らかに出場機会を失っており26節以降の出場時間は20分しかない。そんなシーズンでさえチェルシーの得点王になる選手である。もちろん19-20シーズンも得点王であり、2シーズン連続でチーム内得点王になる選手が市場に転がっているわけである。当たり前のことだがプレミアリーグでの結果も出しており、リーグでの適応力の懸念は何も無い。

そしてアーセナル目線で考えると来季に向けて
☑後方のビルドアップの質は上がった(ホワイト、ロコンガ等)
☑得点力のあるCFが欲しい
☑オーバ、ラカにない空中戦の強さ
☑余りにも少ない空中戦、セットプレーからのゴール率
☑リーグ5位のクロス数、リーグ有数のクロッサーティアニーの存在
☑プレミアリーグでの実績有


これら諸々の要素をエイブラハムの獲得で全て賄うことができる。
確かに金額的に自国産の若手、更にはライバルクラブの選手であり、賛否が分かれるのが当然だろう。しかしながら現状のアーセナルに於ける前線の選手に足りないピース、そしてアーセナルが持っているピースや状況を当てはめていくと彼を獲得したいと思うのは理にかなっていると言えるのではないだろうか。リーグ開幕までは既に一か月を切っている。獲得するにせよ、オーバ、ラカゼットが残留するにせよ決断は急ぎたいところである。

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