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アーセナルのGKに何を求める?

タバレス、ロコンガの加入。そしてホワイト獲得間近となった今、改めて浮き彫りになっているのはゴールキーパーの進退だろう。シーズン終了後、守護神レノの退団報道はあったものの今日現在まで明確な噂は無いので恐らく来季もレノの活躍は見られるのが可能性としては高いと思われる。
しかしながらレノとの契約は2023年と残り2年間となっており、ドイツ代表GKがCLはおろかELすらないクラブに残り続けるのは現時点では不透明である。そしてレノ同様に控えキーパーが居ないのも現状では明確な補強ポイントになっているのは事実だろう。

噂にあがっている選手は何名かいるがアルテタサッカーに求められるGK像とは一体どういったものなのか調べてみた


まずアルテタアーセナルに於けるレノ自身の変化を見ることが一番わかりやすいだろう

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こちらはレノのアーセナル加入後のPL出場時のパス本数及びロングパス本数の時系列グラフである。微妙な変化であると思うが、真ん中の赤線に注目していただきたい。この線から右はアルテタ政権下での数値になっている。
こうして見てみるとアルテタ政権になってからはGKのパス本数は増加傾向にあるもののロングパスの本数は減少傾向にあることが分かるだろう。つまりは『繋ぐ意識』を大切にしているとも言える。

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こちらはレシーブパス数の変遷図。つまりはどれだけGKへのパスが多かったかを示す。これを見ても分かるがアルテタが指揮を執ってからというもののレノへのパスが確実に増加していることが分かる。

以上のことからアルテタ監督の狙いは失点リスクを最小限に抑え陣地回復を図るロングパスを求めるのではなく、近い距離でボールを繋ぐことで保持を継続したい意図が見えてくる

それらを踏まえたうえでレノの今シーズンのスタッツを見ていくと…

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こちらは20-21プレミアリーグで1,000分以上出場したGK(23名)のスタッツ一覧である。基本的には枠が大きいほど良い数値だと思っていただければ構わない。
項目を1つずつ見ていくと試合平均失点数は6位であったのに対して、平均失点期待値は4位であった。期待値上の話ではあるものの今シーズンのレノのパフォーマンスは期待値以下だったと言える。別に彼を貶したい訳ではなくあくまでも数値上の話をしているので気分を悪くしないで見ていただきたい。被シュート数も少なく今季のアーセナルの堅守ぶりは流石だったと改めて思わされる。そして最も注目していただきたいのが中央にあるパス成功率の値である。レノの今シーズンのパス成功率は89.2%でありこの数値はプレミアリーグトップだった。この数値がどれだけ凄いのかを見ていくと

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こちらはレノ、エデルソン、アリソンのスタッツ。おわかりいただけただろうか?レノの足元のレベルは決して低くない。寧ろ彼らに勝っているとも言えるのではないだろうか。ただ、ひとつケチをつけるとするならばこれはあくまでも成功率ベースの話であって、そのパスが如何に効果的なパスであったかは別問題だということだ。


いずれにせよこれまでのデータでアルテタが求めるGK像が少しは分かっていただけたかと思う。そしてここまでを見ていくとレノのレベルの高さを改めて認識する結果となったが、レノ自身のスタイルの変化を改めて振り返る意味でもsmarterscoutを使用してみる。

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こうしてみると守備のクオリティは58→71→81と年々上昇している。先述した通り期待値よりも失点数が多かったのは事実ではあるが期待値ベースで考えるとレノの安定感は抜けたものがある。そして注目すべきはBall retentionの値、詰まるところプレーの安定度を数値化したものだがこちらも61→66→71と徐々に安定してきているのが分かる。

次にレノのプレーマップを見ていくと

18-19

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19-20

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20-21

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徐々に前方向でのプレーが目立ってきており、これはつまりキーパーのプレーエリアが広がっていることを示している。この事からも単純にシュートストップに特化しただけのGKは求められてはいない事が分かるだろう。


以上、前置きが非常に長くなったがアルテタアーセナルが必要とするGKの理想像をざっくりと認識できたうえでここからはそこに当てはまる選手はいったい誰なのかを見ていく


ここまでの要素をまとめていくと…

☑ロングパス一辺倒ではない
☑平均以上のプレー精度
☑プレーエリアは広め
☑プレミアリーグでも通用する守備クオリティ

この辺りが求められると言えるだろう。

そこで上記条件をsmarterscoutで検索する。
具体的にはプレミアリーグ基準(19-20以降)で
①50以上の守備クオリティ②70以上のプレー精度③リンクアップ70以上
この条件で検索をかけてみた。結果はこちら

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件数だけで120近く該当したので、ここから以下の条件で絞り込む
①18~29歳 ②1700分以上(リーグ戦で約18試合)の出場

そうなると…

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該当選手は

☑️リヴァプール:アリソン
☑️シティ:エデルソン 
☑️チェルシー:メンディ
☑️ブレントフォード:ラヤ 
☑️アヤックス:オナナ 
☑️ラージョ:ディミトリエフスキ 
☑️ベシクタシュ:デスタノグ

こうして見るとレノのレベルの高さがはっきりと分かる。そして噂に挙がっていたオナナもアーセナルが狙うべき選手に合致していると言い続けてきたのが分かると思う

覚えている方は多くないとは思うが、ブレントフォードのラヤもアーセナル獲得の噂が度々挙がっていた選手だった

theathleticでもラヤの噂が度々記事になっており、なんでもブレントフォードが昇格出来なければ恐らく獲得できていたとの事だったので、複雑な心境…。

また上記の中で気になるのはベシクタシュ所属のGKデスタノグ。

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セービングはプレミアリーグでも平均レベルであり、保持時のプレー選択もリスクを最小限に抑えたプレーを好むタイプ。ハイボール処理に難はあるもの年齢面を考えても成長の余地を大きく残しており、獲得してみる価値はあると推察する。またプレーエリアも広めであるのも保持制圧を掲げるアルテタアーセナルにはピッタリの存在とも言える。

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しかし、もっと適任であろうゴールキーパーが上記のリストの中にいるのはほぼ全ての方が把握していることだろう…そうです。アヤックス所属のオナナです。

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プレー精度は78とプレミアリーグでもトップレベルの数値である。また内訳を見るとPass toward goal(相手ゴールに10M以上近づけるパス)の数値が55とGKの平均以上のロングパスの意識を持つにも関わらずその精度はプレミアでもトップレベルの資質を持ち合わせている。
数値的に言えば間違いなくアーセナルが求めているであろうタイプに当てはまっている。
また彼のプレーエリアを見ても

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ペナルティエリア外でのプレーが相当目立っており、彼のプレーエリアの広さが伺える。

数値的にもプレミアで通用するレベルにあることは間違いなくプレーエリアの広さからしてもGKからの配球精度の高さを存分に活かしたいアーセナルにとってはうってつけの存在だと思われる。

しかしながら周知のとおり彼は現在ドーピング違反で公式戦には11月まで出場することはできない。それに加え彼はカメルーン出身ということもあり今冬に控えるANCへの出場も見込まれている。この事から少なくとも今季はどのチームも手を出しづらい選手であるのは間違いなさそうだ。更に彼とアヤックスの契約年数は残り1年ということもあり恐らく来季になれば他クラブからのオファーもたくさん舞い込むことだろう。しかし私個人の意見を申し上げるならばオナナは是非とも獲得して頂きたいと思う。仮にもレノ自身の進退は残り2年であり、延長するにしても去るにしても来年には処遇が決まる。となるならば1シーズンのブランクを鑑みても今のうちにオナナを獲得するのはベストではないにせよベターではあると思われる。

一方ここ最近になって加熱してきたのがシェフィールドユナイテッドのアーロン・ラムズデールだが、彼のプレースタイルを見るにとても現状のレノやオナナといった選手とのスタイルの類似点は見られない。

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こちらはレノ同様のスタッツグラフになるが、中央部にある試合平均パス本数は中位、更には成功率はリーグでも下位レベル。ここまでを見るとセービング特化型のGKだとも思われるが一つ気になる点を挙げると…『ロングパスの精度の高さ』は注目したい。グラフ最下段のロングパス数は全体で4位、成功率は6位と軒並み高値を並べている。単純にパス本数を見ると、ロングパスも含めた数値での成功率となってしまう為、パスが下手。といった印象を抱いてしまうがこれはひょっとすると彼の足下の技術は我々が思っているよりは期待できるのかもしれない。

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smarterscoutで彼を見ていくと、守備クオリティはプレミア平均以上のレベル。プレー精度が15と極端に低いのが気になるが、これは横のスタイルを見ると一目瞭然であり、pass toward goalの値が90超えと基本的に前に飛ばすのが最優先であることから精度が下がっているのが分かる。上記のスタッツグラフを見ても分かる通り、ロングパスの精度はリーグでも上位のレベルということを鑑みると逆説的にではあるが少なからずパスの精度は思っているより悪くないんじゃないか?とも思わせてくれる。


しかしながら私個人の意見で申し上げるならばラムズデールの獲得は疑問。いくらデータで前向きに捉えようとしたところでラムズデール自身のスタイルとアーセナルが求めているスタイルに大きな乖離があることは事実。それに金額的にも安くはなく、寧ろ高値ということ、ELもないクラブでの控えキーパーとして置くことのメリットが見受けられない。仮にだがレノが退団した後の守護神候補として見てるのならば少なくともオナナは獲得すべき。もし、上記の数値から分かる通りラムズデールの足下が意外や意外、上手かったなんて事があったらアーセナルのスカウティング力の高さに脱帽することだろう。


ここまでをまとめるとアーセナルのGKに求められる資質とは大きく分けて3つあり

☑ロングパス一辺倒ではない
☑平均以上のプレー精度
☑プレーエリアは広め

これらが求められる。その中で現状の守護神であるレノはパス精度の高さは特筆すべきものがあるが効果的なパスが少なく、悪く言えば安牌を取りに行く傾向が強い。しかしながら彼の適応力の高さは流石といったところで、確実にアルテタのフットボールに適応してきており来季もその成長ぶりを見せてくれると思われる。
一方、レノの後任候補として挙げられるアヤックスのオナナは現時点でのレベルやスタイルを見てもアルテタが求めているGK像にピッタリ当てはまるが、11月まで出場できない事やANCへの参加等の問題はあるものの個人的には是非とも獲得に動いていただきたいと願っている。また、シェフィールドUのラムズデールに関しては巷で言われているほど足下の不安が少ないのではないかと思っており、プレミアリーグでの適応度合、HG枠、若手といった要素を鑑みると獲得に動くのは納得できるが、今までのフットボールとのスタイルの相違に上手く適応できるかは不明であり、そのGKに£30Mという大金を払う価値があるのかと言われると個人的には疑問である。という結論に至った。

しかしここまでのアルテタアーセナル体制下での補強を見ると、明確に失敗したといえる補強はウィリアンくらいで、ケチをつけるならばマリ、セドリックの契約年数だと考えているので基本的にはフロントの意向を支持しながら前向きに移籍市場を楽しみたいと思う。
ヘイルエンドから巣立った若き7番と10番が気負うことなく、安心してプレーする為には後方から繋げられる安定感が必須であり、その主軸を担うのは堅実にアルテタフットボールに適応してきたレノなのか、持っている素質はピカイチだがプレー外での問題点を抱えるオナナなのかはたまた大化けの可能性を秘めた英国の若手ラムズデールなのか。開幕を楽しみに待ちたい。

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