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07 -colorful

僕の目は弱くて
キラキラと煌めいてないと
水を認識出来ないくらいで。

だけど、色だけは変えられる、みえる

僕の心は弱くて
重たさを感じていないと
大切なことをわすれそうで。

だけど、同じ色しかだせなくて、こわい

…もっと気持ちを表せたらいいのにな

…もっと鈍感に気持ちを感じれたらな

ふたつの想いは
3月のよく晴れた空に
吸い込まれるように浮かんで、
ぼんやりとそこに漂い続けるようだ。

なんだって形にできたら楽だろうけど。

でも、形にしなければ、いびつな形だと
笑われることもないだろう。

何より一生懸命
きれいな形にこだわらないでいいじゃないか。

僕がカメレオンといて、
カメレオンが、僕といて
支障はない。
支障はないけれど、
お互いに、いびつな気持ちを持っているのはわかる。

僕の名前は、
「大翔(やまと)」
大きく翔んでるのかなぁ。
名前は広々としているのに、心は窮屈だ。

カメレオンの名前は、
結局まだおもいつかない。
閉じ込めてしまうようで、抵抗がある。

彼が自由な色をだせますように…

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同居人の名前を知った
いい名前だなぁ。

あの青空の下も
あの雨のひどい夜も
どんな日も翔く強さが似合ってる

大翔と心で呼ぶようになって、
いろんな姿がふと全部大翔なのだと思うと、
くすくすと笑ってしまう瞬間がふえた。
名前を知るだけで
距離が近くなるんだな。

帰ってきて
手を洗って毎回タオルを
持ったままきてしまう所

ピンクの折り紙をみて
うれしそうに、でも振り払うように
また赤色になる頑固なすがた。

必ず
見下ろさずに見上げるように
話してくれる優しさ。

水が煌めくように
数滴ずつおちる水の音は、
僕のための優しいきれいな音。

ゲージの下で居眠りをすぐしてしまうところ。

今は前より色が変わることに
わくわくしてる。

どうでもよくなくなったんだ。

いつかの
じゅわじゅわと蘇った記憶は、
もう朧気にしか思い出せない

だけど、
誰かを想って生きてみたいとだけ残ってる。

「いってきます」
いってらっしゃい
「ただいま」
おかえりなさい
「おやすみ」
うん、おやすみ

他愛ない挨拶ではじまり、
他愛ない挨拶でおわる
また明日がやってくる。

ただいま
振り返るとまだリビングにいなかった

手を洗ってるんだな

あれ?
ガラスにうつる自分の色が赤色じゃない

きれいなピンクだ。
はやく見せたくて、とまり木をいったりきたり。

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大翔がこない
あれから数時間、
数日たっても、おかえりなさいが言えてない
からだは綺麗なピンクのまんまだ。

数滴はねる水の音も
ぺたっとはりつく音にかわり
煌めくような光はみえなくなった

突然とびらが開いた
「これ、だれ飼うの?」
誰だろう、見下ろしながら指をさされる

「大翔がよく話してたカメレオンかぁ。でもだいぶん弱ってるけど…」

はなしてた?
過去形。

何故だか
全ての事がものすごい速さで
エンドロールに向かって早回しで頭をめぐる。

そして
理解したんだ

大翔は、ポケットの左側に倒れたんだ
左側に手招かれる毎日のなかで、
ぷつん…と音を立てて吸い込まれた大翔がみえる

たったひとつ
ピンクの折り紙だけは汚さぬようテーブルに置いて。

力いっぱいからだを震わせた
もうのどもカラカラでおなかもすいて、
力なんて入ってもいないけど、力いっぱいに。

ぼんやりした目で
ガラスにうつる自分をみた。
「やった…良かった…」

大翔からもらった様々な色が
僕のからだを染めていた。
すべて愛しい色だ、あたたかい

これなら
また、みつけてくれるだろう

暗闇のどこにいたって
鮮やかな姿の僕でさがしにいく。

左側に吸い込んだいつかの自分も、
全部のみこんで、鮮やかに。

灰色の世界で
色鮮やかに目をとじた

願いが叶うならば
次にあえたらなら、
互いに素直な色で、
色鮮やかな毎日がおくれますように。

colorfulという名前をここにおいて。

END

※読んでくれ方、ありがとうございます。
フィクションです。
浮かんだタイミングで、言葉にしています。