EVとEQ
EVの復習
さて、今回より少し実践的な話に入ります。既知の方も多いかと思いますが、初心者の方にはかなり有用な記事になると考えますのでぜひご覧ください。
前回までの記事の中でEVについてかなり解説をしてきました。
EVとはExpected Value(期待値)のことで、「将来的に獲得できる平均的なチップ量」
でしたね。
また、我々はpokerをする際、EVが最大となるようプレイをしているので、この概念は非常に重要です。
ところで、pokerにおいてAAと27oがディールされた(配られた)場合ではどちらのEVが高いでしょうか?
直感的にAAの方が高いと考えられるでしょう。
では、このときAAのEVはいくらですか?
基本的にEVを頭の中で計算することはできません
なぜでしょうか?
多くの人はこう回答します。
「相手の戦略がわからない以上、相手から取れるチップの総数など予測できないよ」
これも確かに誤りではありません。
しかしながらこの問題はもっと単純です。
相手の戦略がGTOと全く同じだとしても、
「pokerにおけるEVの計算が複雑すぎて暗算できない」
ということが難点なのです。
ではEVが計算できないのなら、私たちはどのようにcallするか、foldするか(もしくはraiseするか)を決めるのでしょうか?
EQとOdds
実際に多くの人は次のように考えているはずです。
このハンドでcallして十分な"勝率"があるのだろうか?と
例えば、次のシチュエーションを考えてください。
流石にいないかと思いますが、「Aのスリーカードなんておりれない!コール!」はやめてくださいね
pokerとは役の強さ自体に価値はなく、相手より強い役を完成させていることだけがpotを取れるかどうかに関与します。
ここまで明確に相手のハンドがわかっていれば、少しの計算により、十分な勝率があるのかどうかを考えることができます。
そして、このときに考えるべき、チョップまで考慮に入れた勝率のことをEQ(Equity)と呼びます。
callするかどうかは、このEQが勝った時の見返りに対して十分あるかどうかによって決定します。ここでこの見返りを数で表したものをオッズと呼びます。
さて、この時のEQとオッズはいくつでしょうか?
まずEQですが、
EQ=40%
となりますね。
内訳は
30%のゴミ手に対して完全勝利
+
20%のAトリップスによるチョップで半分の利益
より、
EQ=30%+(1/2)*20%
です。
つまりEQの計算式は次のようです。
一方、オッズはどのように計算すれば良いでしょうか?
これは、次のように考えます。
まず、
potには50bbが入っています。
相手は50bbのオールインをしてきました。
仮にあなたがコールすればさらに50bbがポットに入り、勝利した場合、合計で
50(現在pot)+50(相手bet)+50(自身call)=150bb
を得ることができます。
即ち、あなたはここで
50bbを危険に晒し、150bbを得る勝負をしています。オッズは次で計算されます。
Odds= 150/50 = 3
つまりオッズの計算式はこうです。
即ちこの状況ははオッズ3倍の勝負を40%の勝率で受けるべきか?
ということです。
さて、Oddsから必要勝率(callするのに必要なEQ)を出してみましょう
今回の場合は1/3即ち33%の勝率が有ればcallは利益的ですね。
ピンと来ない人はこう考えてください。
EQが33%以上ある→3回に1回以上勝てる
3回に1回以上はOddsの3倍になって返ってくる→平均してプラスの勝負!
このように、
EQ>1/Oddsで有ればコールが正当化される。
ということです。
つまり先の問題で答えはcallすべき、となります。
数式に慣れ親しんだ人からすれば当然の結果でしょうが、そうでない人に言っておきたいのは
EQが50%ない場合でもcallは正当化される
ということです。
ここでコールをすればEQは40%ですから、6割は負けることになります。それで良いのです。
ここで大事なことは、
Oddsは常に計算できるということです。
すなわち、
EQを知ることができれば、callするかしないのかを大きく誤ることがなくなります。
Equity Realization (EQ実現性)
では、現実問題として、
EQをプレイ中に知ることはできるのでしょうか?
また、EQが必要勝率以上であれば、必ずbetにはcallするべきでしょうか?
この問いかけは少し複雑です。
まず、重要になるのは
Equity Realization (EQ実現性)
という考え方です。
次のような状況を考えてください。
実はここでGTOによると、
A5sのEQは46.8%と計算されます。
前回の問の状況と違い、相手のハンドはかなり複雑です。
実際には相手は
画面の濃いオレンジ部分でこのbetを仕掛けてきます。
(前回記事を読んでいただいた方はお分かりだと思いますが、相手はGTOを使用していると仮定して話を進めます。この仮定が誤っているかどうかは問題になりません。)
このオレンジのそれぞれについて、
・どのハンドがどれくらいあるか?
・各ハンドでのbet率は?
・各ハンドに対しA5sの勝率は?
というのをすべて計算し、A5sのEQを導出するのは現実的ではありませんね。
このように、A5sのEQが46.8%だと計算することは不可能と言えます。
一方でOddsは簡単に計算できます。
Odds = (20.25×2+22.5)/20.25 =3.11
ここまで具体的に計算しなくても
Odds ≒ 3pot/pot = 3
くらいはすぐにわかるでしょう
次に、A5sのEQが仮に46.8%とわかったとして、callすべきかどうかの判断をOddsとEQの関係性から決めることはできますか?
Oddsによれば必要勝率は
必要勝率 = 1/Odds = 32.2%
となります。
先ほどの理論によれば46.8%のEQを持つA5sは
EQ>必要勝率
ですから、callすべきですね?
ところがどうでしょう。次の状況を想像してみてください。
GTO的にはこのAll-inにA5sはとても耐えられません。
ここでのAll-inに対し、A5sのEQは23.5%しかなく、
Odds = (68.75×2+63)/68.75 =2.92
が要求する必要勝率
必要勝率 =34.2%
に全く届かないですし、GTOでもcallできません。
ここであなたは冷静にA5sをFoldする訳ですが、この時EQの23.5%は放棄することになります。
ここで大事なことは、Flopの時点で考えていたEQの一部をTurnで放棄している、ということです。
つまり、
現状のEQを全て実現できるのは直ちにAll-inを選択した場合のみになります。
All-in勝負以外の状況でEQを考える場合には、
そのEQがどの程度実現できるか?(EQ実現性)
というものが大事です。
蛇足ですが、逆のことも言えます。
仮にTurnでハートが落ちれば、A5sはナッツフラッシュを完成させますから(Sフラやフルハウスがない場合)、相手から追加でチップを得ることができるでしょう。
このことを想定するのであれば、フロップ時点でのOddsは実際よりも良いものになります。
この、将来的に予測されるOddsを、インプライドOdds(埋め込まれたOdds)といいます。
このように、実際のシチュエーションにおいては
EQとOddsのみから、callするかの判断を下すことはかなり困難です。
EQ実現性やインプライドオッズを適切に考慮する必要があります。
では、冒頭の話は無意味だったのでしょうか?
そんなことはないですね。なぜなら途中で記載した通り、
All-in勝負に関しては必ず全EQが保証される
からです。
EQを算出すべきシチュエーション
では、All-inが頻発する状況で、EQ計算の価値が高いのはいつになるでしょうか?
・まず一つはリバーでしょう
ここでリバーのAll-inについては、相手のハンドに対して勝利しているかどうかのみが重要になります。
もう少し正確に言えば、
相手のAll-inレンジ(All-inするすべてのハンド)に対して、今、自分の持つハンドのEQが必要勝率以上あるかどうかだけが重要です。
なぜなら、もう内部的に勝敗は確定していますからね。
つまり、リバーではEQが計算できるかどうかよりも、どちらかというと相手のAll-inレンジを正しく見積もれるかに比重がかかります。
これは、相手の
Flop-Turn-Riverにおけるアクションを考慮する必要があり、GTOを勉強しないと難しいので割愛しましょう。
・次に大事なのはプリフロップです。
さて、プリフロップでは相手の(GTOの)レンジを覚えることは他のストリートに対してかなり優しいです。
もう少し言えば、GTOから乖離している相手に対しても、All-inに行く時点で4bet-5betになっている都合上ハンドがかなり絞られます。
よって、
各ハンドが相手のハンドに対して、どのくらいの勝率をもつか
ないし、
各ハンドが相手のレンジに対して、どのくらいの勝率をもつか
を知ることは有益です。
これを知らない場合、Oddsに合う(EQ>1/Odds)のにFoldし、EVを大きく失うことでしょう。
有料部分にそのEQをまとめておきます。
(後日モチベーションがあれば制作予定)
お金を出したくない方へ向けて、
iOSのOdds Calculatorというアプリをおすすめします。有料部分の内容はこのアプリケーションの出力結果を見やすく纏めただけになります。
・さて、最後に大事なのはナッツ級ドローです
途中のA5sの例のように、何かを引ければほぼ勝ちが確定する。という場合はよくあります。
この時気になるのは
何%でフラッシュが完成するの?
ということでしょう。
これについては以下で求められます。
2倍4倍の法則
pokerにはEQを暗算する際にとても有用な2倍4倍の法則というものがあります。
この法則に基づき、得られる結果は、
TurnないしRiverで特定のカードを引ける確率
になります。
まず、アウツという単語の説明をしましょう。
常に相手のハンドがわかるわけではないので現実的には
フラッシュドローのアウツは同じスートの枚数を指します。(もしかしたらフラッシュですら負けるかもしれませんが考えないということですね)
途中の例では
となるのでアウツは9枚です。
相手のハンドに2pairやトリップスがなければ
Aのクラブ、ダイヤ、スペード
もアウツになりますからアウツは12枚ですね。
さて、アウツがわかれば次の方法でそのアウツを引ける確率が分かります。
さて、これによれば先の例では
FlopでAll-in時のEQは
アウツ12×4 =48%程度
TurnでAll-in時のEQは
アウツ12×2 =24%程度
となり、GTOによる実際のEQであった
46.8%,23.5%とかなり近い数値になっていることがわかります。
多くのポーカープレーヤーはこの方法でEQを概算し、Oddsと確かめてAll-inコールをすべきかどうかを考えているのですね。
最後に問題を出します。
さて、Oddsの計算をします。
Odds=(50+40*2)/40
なので、
Odds = 3.25ですね。
ここまで正確でなくとも
Odds が3倍より良い、ということはわかるでしょう。
さて、アウツは9枚ですね。Kは流石にアウツには入らないでしょう。(Aに負けてますからね)スペードを引かない限り勝ち目は無さそうです。(JQのランナーランナーはありますが2,3%程度です)
であれば
EQ=4%*9=36%
なので、オッズが3倍あれば十分勝負できます。
よってここでFoldはあり得ません。
よく、フラッシュドローや、ストレートドローでコールするべきか、を悩んでいる人がいます。
こと、All-in対決についてはこのオッズコールは一つの判断材料になるでしょう。
さて、長くなりましたが今回もありがとうございました。次回はEQ実現性や、EQの性質にもう少し踏み込んで話せればと思います。
-有料部分は現在0文字です-
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