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大切なものとの暮らしはこんなふうに “飾る楽しさ”を教えてくれる「綿嘉ガクブチ店」

専門店というのはたくさんありますが、額縁の専門店へ行ったことはありますか?この記事の見出しの 写真は、逸見亜子さんという銅版画家の作品です。作品のあたたかい雰囲気が額装によってより引き立たてられているように感じます。この額装をされたのが彦根中央商店街にある額縁専門店の「綿嘉ガクブチ店」です。
どんなお店なのか行ってみました。
額縁専門店ってどんなところ?

彦根中央商店街の一角に「綿嘉ガクブチ店」はあります。以前はこの界隈にも額縁店は数店あったそうですが、今はここだけです。

店内には壁にも棚にもたくさんの額縁がズラリ。すごい量だ…と思い眺めていると、迎えていただいたのは店主の羽渕照子さん。突然の取材訪問にも優しく対応していただきました。

・額縁専門店ってこんなところ

そもそも額縁とは作品を保存、保護するためだけでなく、作品の一部として魅力を引き立たせてくれるためのものでもあります。そういった理想の額縁を求めてたくさんの方が来店されます。絵画を描かれる方だけでなく、書道や刺繡をされている方、大切な品を飾りたい!など様々です。

いろいろな想いに応えるため、額縁の種類もたくさんあります。こちらは見本のケースボックスの一部。写真に収まらないほどです…。

ショーケースの中にはまた別の見本がありました。どうしても欲しい額縁が見つからないという場合には、なんとイチから手作りも出来ちゃいます!さすが専門店ならではですね。最近は作品に合わせて手作りする依頼が増えてきたと、羽渕さんは教えてくれました。

気軽に!こんな楽しみかたも

私もそうなのですが作品を作るという趣味を持っておられない方もたくさんいると思います。ですが家にあるものでも、額縁に入れてみるとまた違う雰囲気を出してくれるのだと知りました。たとえばこんなふうに…。

こちらは手ぬぐいを額縁に入れたもの。手ぬぐいと言われなければ分からないですよね。

こちらは小物を立体額装したもの。なんだか博物館に展示されているようです。ただ置いておくよりも特別感を感じますよね。
 誰にでも大事なものはあると思います。大切にしまっておくのも良いですが、こんなふうに飾って、一緒に生活をしてみるのもまた良いのかもしれません。

お店は代々受け継がれて…!?

ここからはお店の昔話になります。とても興味深いお話でしたので、よければもう少しだけお付き合いください。さて2023年で76年目を迎える綿嘉ガクブチ店。羽渕さんで三代目となり、お店を始められたのは御祖父さんになります。羽渕さんの家系は代々商売をされていたようで、先代の方は綿を使った商売をされていたとのこと。そのまた先代は別の商売を…。そうして受け継がれていったそうなのですが、ではお店はいつ頃からされていたのでしょうか…。
なんと300年前から!江戸時代(1710年頃)から続く商人の家系なのでした!
時代とともに扱う商品やお店が変わりつつも、ずっと商人をされてこられたというのはおどろきです。300年続く老舗、というのとはまた別の凄さを感じます。

綿嘉ガクブチ店として

お店の歴史についてもう少し詳しく教えていただきました。

店名になっている「綿嘉(わたか)」というのは“綿”を使った商売を“嘉兵衛さん”が始めたことから名づけられたそうです。江戸時代から続いてきた商売ですが、一時はやむをえず閉店をされていた期間も。太平洋戦争(1941~1945)の影響でお店が営業できる状勢ではなくなってしまったのです。
そして1947年のこと。お店を再開させたのが羽渕さんの御祖父さん。漢文などを教える教員をされていたそうです。引退後に「せっかくお店があるのだから」と、絵が好きだったということもあり額縁店として再開させました。当初は額縁だけではなく、石膏の置物など、美術品も多かったそうです。

しばらくしてお店は二代目となる御父さんへ。それまでは薬剤師をされていたことから、引き継ぎをきっかけにお店の半分を薬局として営業されます。お店も街のようすも変化してゆき、1973年からは中央商店街の道路拡張工事が始まります。避けられない移転、建て替えにともない、お店は額縁専門店へと変わります。

 (新修彦根市史第十二巻より引用)

しかし御父さんは突然入院をされることになります。注文を受けていた仕事もまだまだ残っていたそうです。訪れた突然の出来事、待ってはくれない責任の重圧。想像をしただけでも胃が痛くなってきます…。羽渕さんは「このまま逃げるわけにはいかない」と目まぐるしく過ぎる毎日のなか、三代目を継がれました。
 「あの時、引き継いで良かった。みなさんの大切な作品、思い出の品を飾るお手伝いをできることが、とても楽しいですから」羽渕さんは笑顔でそう話してくれました。

おわりに

額縁専門店というのはどんなところなのだろうか。ただその疑問だけをもって取材をさせていただきました。突然の訪問にもかかわらず暖かく対応していただいた羽渕照子さん、ありがとうございました。いろいろなお話を聞くことができ、まさに“人に歴史あり“ということをあらためて実感します。
額縁の楽しみ方を教えていただいたので、私も家にあった布のハギレを額縁に入れてみました。そうすると…不思議と良いものに見えてきました。本当ですよ。
また今回の記事でご興味をもたれた方、大切なものをもっと素敵にしてみたい!そう感じられた方は一度、お店に訪れてみてはいかがでしょうか。

(写真・文 林幸二)

綿嘉ガクブチ店
住所:522-0063 滋賀県彦根市中央町7-41
電話番号:0749-22-4086
営業時間:9:30~18:30
定休日:木曜日