スキあらば(『夜にしがみついて、朝で溶かして』ライナーノーツ1)

「私も最近会うたびに気にしすぎだと思うけど嫌味言われてるような気がしてちょっとイライラしてたごめん」彼女からラインが来た時に、またかって思った。

「俺が友達をいじめてる」そんな根も葉もない子供じみた噂を俺よりも信頼した、「私じゃあなたが欲しい答えを言ってあげられない」とかヒロインじみた捨て台詞を吐いたあいつの亡霊が、ほらねと呆れた顔をしている。

余裕がなくなって、胸が苦しくて、飲み込みたいのか、吐き出したいのかわからない何かが溢れ出してしまう。「なんでわかってくれないんだよ、このブス」とでも言えればいいのに、中途半端に成形されただけの塊がボロボロと崩れながら溢れる。温めたいのか、冷ましたいのか、整えたいのか、崩してしまいたいのか。いつもそうだ。本当に大切な人にさえちゃんと届かない。

小さい頃から俺の喜びも嬉しさも好きも届かない。クリスマスのプレゼント交換で俺に渡ったプレゼントの送り主の顔が俺のリアクションを見て曇る。サッカーの試合でゴールを決めて精一杯腕を伸ばして喜んでいるのに顧問にはもっと喜べと言われる。ぽつりぽつりと発射したばかりの幸せが俺の周りに散らばる。そのくせに俺の悪意だけにはみんな気づく。

高校生の時、現国の先生がこんなことを言っていたのをよく覚えている。「ここに白いものがあります。これを目立たせるためにはどうすればいいでしょうか?もちろんこの白をもっと濃く塗る、それでもいいでしょう。もしくは、周りを黒く塗り潰す。そうすることでもこの白は際立ちます。」

嘘をつけ。誰も俺の「好き」に気づいてくれないじゃないか。硬い表情筋も、サプライズに気づいてしまう当たり前な敏感さも、それを隠せない鈍臭さも諦めた。だから、嫌いなものは嫌いだと言った。誰にでもいい顔ができるあいつを嘘くさいと思う。こんな不器用な俺の精一杯の「好き」をお前も拾ってはくれないのか。

俺の白は黒に溶けてしまう。滲んでしまう。黒を足せば足すほど境界線のないその白は黒におかされていく。


ほら、また俺はこうやって自分の事ばかり。わかってはいるんだ、わかっていないことも。もらったプレゼントのことよりもあげたプレゼントのことばかり考えていたことも。この幸せがいつかVARで取り消されてしまうんじゃないかって怯えていたことも。わざわざ泥で汚したラッピングにいくら綺麗なものを詰め込んでも誰も受け取ってくれないことも。

だから、もうやめるよ。

最近どう?便りがないのが良い便りとはいうけどそんな歳でもないでしょ。まぁ別に普通ならいいけど。言葉にできないからって黙ってるの?まぁそれもいいけど、俺たちはまだ「アレ」とかコレとかで通じ合えるような仲じゃないとは思うんだ、残念だけど。

お前のことを思い出したことはないよ、忘れてないから。最近は早く休みにどっか行ける世界に戻らないかなってことばっか考えてる。やっぱりお前と行きたいな。最後の旅行は草津にバスで行ったね。指をポキポキ鳴らす癖やめてって言ってたの最近は気にならなくなってたな。

こんな世間だからやることもなくててめーに勧められた韓国ドラマを観たよ。今まで韓国ドラマを観ることも、彼女に勧められたものを安直に受け入れることも恥ずかしがってきたしょーもない人生だったけど、観てみたら素直に面白くて拍子抜けだったな。

こんな事してたら丸くなったなとか言って逆に嫌われたり、あの頃を懐かしまれたりするのかな。「私に魂売ったつもり?」とか。君と真面目に向き合っただけなんだけど。それも皮肉だね。

第一、あの頃から俺はダメダメだったしね。君に告白した時の記憶なんて恥ずかしい事ばかりで早送りしたくなるよ。

君との記憶を一粒一粒残さないように掬い上げて、正直に向き合いすぎてちょっと疲れてきたな。なにか忘れてたらこの文章の終わりに謝りに行くから教えてね。あとちょっと。少しならネジを緩めてもいいから、俺への気持ちは緩めないで聞いてほしいな。

ここまで正直に話すと、嘘がバレてしまう気がするから言ってしまうけど、今でも「君だけは信じてる」って胸を張っては言えない。どうしても気になることもある。なんとしてでも繋ぎ止めようとも思わない。今はちょっとなら裏切られてもいいかなとすら思ってるんだ。綺麗事かな。

俺は全部君のせいにしてただけ。受け取ってくれないのも、抱きしめてくれないのも。そして何よりお互いに素直になれないのも。そうやって不貞腐れてた。けど、見てないのは、もしかしたら、ひょっとしたら、俺だったのかもしれないね。違うところに俺ばっか怒って、君は怒りも笑いもしなかった。でも君はあの時泣いてたのかもしれない。本当にごめんね。

寝る前に繋いだ熱い手も、寝起きで開けただるい目も絡まった癖っ毛も思い出すまでもなく覚えてるよ。悲しいことも苦しいことも君と共有できたらいいな。

気をつけ、礼、ありがとうございました。なんかで終わりたくないな。俺が逃げてもついてきてはくれないんだろうから、どこまでも歩み寄るね。出来合いでも駄々でも疑いの素でもなんでも俺が残さずに全部食べてやるよ。

だからさ、こんなにも、恥も外聞も、文脈さえも振り切って、あんたに、お前に、てめーにだけ伝えたんだからさ。死ぬまで一生愛してくれよ、ブス。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?