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ドイツのお肉屋さんで働くということ

私から言えることはたった一つ
ドイツのお肉屋さんで働くな、ということだ

まず朝が信じられないくらい早い パン屋さんにも負けない5時出勤である
5時出勤という事は私の家からの移動距離、朝飯、その他諸々準備も考えると3時には起きていたい
そんな理由で私は今3時起き19時就寝の生活をなんとか習慣にしようと頑張っている最中だ

ドイツの19時、特に今の時期は全然余裕で明るい、なんなら21時くらいまで明るい
なので脳が全く寝たがらないのだ
私は始め、ドイツの家は窓が大きくて光がたくさん入ってうれぴ♡と喜んでいたのだが、これが思わぬ弊害となってしまった
今はアイマスクに耳栓をして寝る事で日差し・同居人や外から聞こえる生活音を遮断して眠ることにしている

勤務中、急に酒を勧められた

そして肉屋で働くということは、牛肉・豚肉・鶏肉様々な肉と向き合わなければならない
私は出勤初日から牛肉を捌かされたのだが、8時間の勤務時間いっぱいでかいナイフを握らされ自分の上半身もあろうかという肉を何個も裁かされ続けるとどうなるかご存じだろうか
右手の関節全てが『変』になるのだ

こんなざっくりとした言い方じゃ何も伝わらないと思うので詳細に言うと、右手をグーパーすると指の関節という関節が一気に悲鳴を上げる、私は特に小指が痛む
だから何かを握らなければ基本痛まない ただ握った瞬間右手全体に緊張が走る
鍋の取っ手、マグカップ、やかんの持ち手…そういうものを手に取る度、右手が「お前今、重いもの持とうとしてないか」と語りかけてくる

ある日、たっぷりのお湯を沸かした電気ポットの持ち手をつかんだら右手が震え出しすべての関節が「それを離せ」と訴えるように痛みだした
私は1リットル弱のお湯の入ったポットすら片手で持ち上げられないのか、震える右手を左手で必死に支えようやくテーブルの上に戻した時の事をよく覚えてる

そんな私が毎朝ベッドで目が覚めて一番最初にすることが右手が動くかどうかの確認
午前三時、ベッドの中で右手をにぎにぎして、その日の痛さを確認
一応動くことがわかると少し安心して、ようやく体を起こせる

そしてドイツの肉屋で働くと、当然だがドイツ語で全てのコミュニケーションがなされる
私は一応日本で約2年ドイツ語を勉強してから渡独した、しかしそんなものは最早無意味だった

ネイティブの喋っているドイツ語のなんと早い事か
早口言葉でわざと自分を苦しめようとしているのかと思う程早い、ちょっと待ってをいう暇もない
いや、例え言って相手の言葉をさえぎった所で何を言ってるかわからないのに止めてもどうしようもない なにもない

もう半泣きである 仕事も、基本的には言葉ではなく実際にやってもらってそれを真似する
聞き覚えのある単語を何とか拾い集めて「こういうことかな」と思いながらソロソロ始めるので仕事も遅い
先日私より先に職業訓練生として入っている男の子に「●●が早く仕事をすれば早く帰れるのに」と言われ、その言葉が深く胸に突き刺さった

そりゃそうだ 私がもっと言葉を理解できていれば もっと素早く動ければ もっと出来る人だったなら彼は早く帰れるのだ

私のせいで彼は早く帰れないんだ
私のせいで 私のせいで 私のせいで

と、落ち込んでもいられない 落ち込んでいても目の前の肉は勝手に捌かれたりしない
右手の指の関節が悲鳴を上げようと汗でびちょびちょになろうと、今目の前の肉に向き合うしかない 私は今そういう所に自ら立っているのだ

庭のさくらんぼ

お肉屋さんのバックで、ひたすら肉を捌き製品を作り続けて1カ月
有難い事に同じ職場で働いてる従業員は全員親切で、割合外国人も多いこの職場で最もカスな私のドイツ語にみんなきちんと耳を傾けてくれる
私のいる部門の上司は言葉のおぼつかない私にいち早く言葉よりやって見せた方が早いと気づき、全てをまずはやって見せてくれる
もう一人の従業員も「わからなかったら聞いて」と何度も私に声がけをしてくれる
私に苦言を呈した先輩訓練生も、私の仕事をよく見てくれるし、わからないと質問したら答えてくれるし思ったことはハッキリと言ってくれる ある意味では一番有難い

私の働く部門にいる人は私以外全員男性である 初日「あ、オタサーの姫だ」と思ったまぬけな自分すらもはや懐かしい
周りと比べ当然体の大きさが違うし一番背の高い人でほぼ2mある
153cmしか無い私は彼らから見たら小学生か何かのようなサイズ感だろう
多分これまでここで女性が働いていた事がないのか、与えられた制服は男性サイズでシャツもズボンもぶかぶか
しかも仕事場の棚の一番上にある調味料や壁に引っ掛けてあるナイフにも手が届かない
これがアホのように悔しい 他の人はほんのひと手間でひょいと出来る事が私には2手間3手間かかる
本当に時々、大人の中に子供が入り込んでしまった気持ちになる 正直泣きたい
しかし泣いても泣いてる理由を説明する語学力もない 日本語でまくしたててビビらせたろうかなとも思ったが私が向こうの立場なら怖すぎるのでやめた

それでもやっぱり悔しすぎるので、これから信じられないスピードで成長して周りを見返してやろうと思います
ドイツ語もナイフの扱いも右手の痛みも全部乗り越えて強い女になりたい
私はソーセージが好きで、その気持ちは今でも消えてない 心が折れそうな瞬間もあるがそんな日もお店のソーセージを食べると心がほっとする
ここにいる誰よりソーセージが好きなんだからな!!!と自分に言い聞かせ、明日も元気に働きに行こうと思います

読んでくださりありがとうございました!

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