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コロナ禍だからこその飲食業へのチャレンジ/ キッチンカー事業による新しい需要の開拓:株式会社 if me

2014年に愛知県でGood Job!展を開催したときに、フェルト素材をいかしたアクセサリーなどを展開する「ぽんめのこ」のデザイナーの秋田順子さんと一緒に来場していただいたのが、井藤瑞栄さんです。

井藤さんは障害のある人の施設で働いていて、ぽんめのこの素材となる刺繍パーツをつくっていました。私の印象は、名古屋のかっこいいお姉さんが2人!福祉もデザインも横断して、柔軟に仕事を作り出していました。

その後、井藤さんは新しくご自身で会社を立ち上げます。そして、2020年の春に緊急事態宣言が出され、多くの福祉事業所では仕事づくりでの落ち込みがあったと思います。

井藤さんはそこから、キッチンカーの手配、そして実際に11月には移動販売をスタートする、このアイデアと瞬発力、そして行動はすぐにできることではないと思います。どのように、コロナ禍でのピンチを仕事につなげていったか、お聞きしました。

はじめに、井藤さんがどのように福祉の現場にかかわってきたか、またご自身で会社を立ち上げられた経緯を教えてください。

大学時代に福祉事業所でバイトをしたことをきっかけに障害のある人、特に知的障害のある人の支援に約20年関わりました。社会福祉法人で管理職として働いてきたなかで「福祉制度のなかで守られている」ことを実感してきました。社会福祉法人で管理職として働いてきたなかで「福祉制度のなかで守られている」ことを実感してきました。
もっと、一般の人たちと障害のある人が共存し、障害のことをもっと知ろうと思える機会をつくろう、そしてもっとフットワーク軽くおもしろい福祉サービスを提供したいと株式会社を設立し、自社で就労継続支援B型事業の事業所「chord」を運営することにしました。
株式会社なので福祉事業以外にもさまざまな事業を起こし、その事業からB型に仕事をおろすという仕組みができれば、他の業者から依頼を受けなくても自分のところで仕事を生み出せると考え、同時にアクセサリーブランドを立ち上げました。Instagramで発信したところ、1年目から百貨店から販売の依頼を受け、仕事も充実していきました。

▼株式会社 if me〈会社概要〉
https://ifme.co.jp/company/
▼オリジナルブランドのアクセサリー、雑貨などの販売 
https://ifme.stores.jp

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株式会社の方が身軽にできるのでは?と判断されたと思うが、実際運営してみて社会福祉法人で働いていた時の感覚とは違いますか?

全く違うと思います。以前にいた社会福祉法人でも製麺(うどん)をしていましたが、販売の方法もどうやったら売れるのかもわかりませんでした。そこに時間を割くより目の前の介護、支援に注力していました。ものを売ることに対して勉強する姿勢が自分の中になかったように思います。
会社を立ち上げてからは、ものを売ることについては立ち上げながら手探りで勉強していきました。
今、会社では福祉サービスにかかわるスタッフと、販売のスタッフはそれぞれ別で、連携をしています。会社のなかで事業が違うような感じでしょうか。社会福祉にかかわる人はやはりその専門知識も必要なので、そのような専門性をもった人にお願いをしています。

事業展開について詳しく教えていただけますか。

コロナ以前は、会社の中での事業規模としては、小売20%、福祉80%くらいでした。
販売はアクセサリーが主力です。はじめたころはデザインがあって、その制作に利用者がどう関われるかと考えてやってきましたが、今は、利用者のできることからデザインを考えるという転換が起こっています。利用者が必ずどこかに携われる工程になっています。
利用者の男女比は半々くらいですが、精神障害の方が多いです。これまで、アパレル、ファッションに携わっていた人が、ここなら自分でアクセサリーの仕事に携われるのではないか、自分の作ったアクセサリーが百貨店に並ぶと思うと、もう一回やり直せるかもと期待してくることもあります。給料は、一律の時給に作業や時間などを考慮した加算給を加えています。

金属叩き風景

コロナ後の変化、新しくはじめたキッチンカーについて教えていただけますか。

コロナでの1番大きな変化は、1度目の緊急事態宣言で百貨店が閉まったことで主力のアクセサリーの販路がゼロになったことです。それまで期間限定のポップアップショップを年間を通じて百貨店で行い、販売の大きな機会だったので、chordにおろす仕事もなくなり工賃を払える目途もなくなりました。実は、将来の夢が居酒屋経営なんです。大学時代4年間厨房で働いていて料理が大好き。コロナで、他の下請けもストップし、仕事を生み出さないといけないと考えた時にやはり飲食かなと。
また、事業所では昼食を提供していなかったので、キッチンカーなら事業所の駐車場に止めて食事を提供できるのでは、と思いチャレンジすることにしました。キッチンカーを購入し、2020年11月には移動販売、ケータリング、デリバリーサービスができるようにしました。

これまで関わっていない新しい業態に取り組むには投資もいると思うのですが、最初から採算が取れると思っていましたか。

これまで、アクセサリーの販売で大規模野外イベントに出店したことをきっかけに、キッチンカーを運営している人とつながっていました。
また、愛知県は年間を通じて、2~3万人規模の大型イベントがあり、トヨタスタジアムなどサッカーの試合時にはスタジアムの前に20台くらいキッチンカーが並び、それを目当てに来るお客さんがいるのも知っていたので需要は見込んでいました。

キッチンカーをはじめてみて、実際の反応はいかがでしたか?


目立つように大きなアメ車にしたので、イベントではお客さんは車を覚えてくれ、名古屋では珍しいNYのストリートフード(チキンオバーライス)を提供していることも記憶に残りやすいようで、リピーターさんも増えてきています。
平日は昼食で日替わりランチを提供し、利用者も食べています。昼食を出すようになってほぼ100%の通所率かもしれません。前は70%くらいでしたが、昼ご飯に間に合うように来る人もいます。やっぱり食べることは活き活きと生きる為の源なんだと痛感しています。
平日のランチは、利用者と近所のお客さんをふくめて、30から40食ほど作ります。桜の時期は一回のイベントで100食近く作りました。
キッチンカーの売り上げの採算は取れていて、テイクアウトの需要もまだまだ見込めると思っています。

コロナ禍で大変な状況を経て、今後の展望は?

コロナ以前は下請けの仕事が8割、自社ブランドの製造が2割といった感じでしたが、現在は逆転してキッチンカーと自社ブランド事業が8割、下請けが2割になりました。
飲食もブランドも売れないと仕事が生み出せないので、販売の力をつけていかないと、と思っています。

近い将来、実店舗を会社で作り、昼間は福祉事業所のchordにレンタルキッチンをして、chordがお客さんにランチ提供する、というかたちがおもしろいかなと考えています。

周りの事業所ではどのような影響があったでしょうか。また、他の事業所との連携はありますか。

就労支援を行なっている事業所の集まりで会うと、全く仕事がなくなったという事業所がほとんどでした。特に就労継続支援A型事業所では仕事がないが利用者にお給料払わないといけないし、どうしよう・・・と言いながら何も答えが出ないという話し合いも何度かありました。
今は、下請けの仕事が戻ってきているとは聞いています。ただ、飲食業の下請けをやっている事業所は緊急事態宣言に振り回されている印象もあります。
うちのキッチンカーでは近隣の障害者支援事業所で作られている無農薬野菜を仕入れています。
今年度ソーシャルプロダクトアワードを受賞した際に、ワイナリーをやっている福祉事業所とつながりができ、これからキッチンカーでそこのワインを出す予定です。
クラフトビールを作っている事業所もあるので、そういうところと協働していきたいと考えています。
ほかにも、近所に水耕栽培をやっている事業所を見つけ、そこのハーブも4月から使う予定です。

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販売の主力であった百貨店等でのアクセサリーの販売ができなくなってから、キッチンカーでの移動販売の事業スタートまで、ほんとうにスピーディーで驚きます。
しかし、それは思いつきでもなんでもなく、それまで福祉施設で働いてから感じていた疑問や、それまで培ってきたネットワークや行動力などがあってこそだとお話をきいて実感しました。
キッチンカーでのランチ提供が施設の給食にもなるというのは、目から鱗の発想でもありました。
近所の野菜をつくっている事業所、縁あって出会ったワインをつくっている人たちとの連携も、キッチンカーでの飲食の価値も高めています。
ピンチをチャンスに、常に考えてどんどんと実践していく姿勢と行動力がしごとをつくるのだとあらためて思いました。
井藤さん、ありがとうございました!

2021年4月16日
進行:森下静香(Good Job!センター香芝)


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