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クマのおいとま(3)

 主は山に行ってしまった。
 留守の間、家を見守るのが役目だが、それだけではつまらない。
 主が山に行くなら、私は海に行ってみようと思った。

「あいにくの雨ですね」
「海にピラミッドがあります。え? 違う」


 水族館に来てみた。ここなら雨でも楽しめるのだという。
 さっそく中に入ってみる。

「おお……!」
「アザラシが泳いでます。身軽ですね」
「あ! あれは……同族……?」
「気持ちよさそうにお昼寝していますね」


 建物の中に多くの魚や動物たちがいる。
 薄暗く落ち着いた空間はなんだか安心する。

「ものすごい牙です……!」
「こ、こんにちはでございます……」
「ペンギンの泳ぎを真横から見るとは、不思議な感じです」

 大水槽まで来ると、天井まで伸びる大きな海に圧倒されてしまう。
 主は、ここで写真を撮るのが好きだと言っていた。
 この大水槽には国内最多の5万尾のイワシの群れが住んでるのだとか。

「まるで映画のようです!」
「大水槽を横切るトンネルです。あわわ、サメもいる…」
「なんだかぐてっとしていますね、主のようです」
「ヒェッ……びっくりしました……」
「ワカメってこんなに美しい海藻だったんですね」

 本やテレビでは見ることのなかった不思議な生物が、想像もしなかった奇妙な生物が、確かに目の前で生きている。
 世界は広く、まだ知らないことばかりなのだと思わされた。

「さ、魚なのに足があります!」
「大きなカニです! 美味しいのでしょうか……?」
「これも生物なのですか? 神秘的ですね」

 まだまだ先は長い。
 ゆっくりと見て回ろう。
 だって今日は私だけのお暇だ。 

(次回へつづく)


【行ったところ】

八景島シーパラダイス
https://www.seaparadise.co.jp/index.html

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