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クマのおいとま(5)


「主…お元気で…」

 主が山小屋バイトを始めてから早二ヶ月。
 毎日が“お暇”のようになり、気楽な生活をしていたけれど、窓から雲を眺めるのにも飽きたので。

「おお、広くて色んな言葉が聞こえてきます」

 ちょっと、遠くに行ってみたくなりました。
 遠くに出かける人、帰ってきた人、飛行機を見に来た人、目が回りそうなほど多くの人が行き交っています。
 もっとゆっくりこの場所を見てみたかったけど、飛行機は時間に厳しいと主に聞いたことがあるので急ぎましょう。

「雲より高い場所にいますよ!」
「鉄の翼、かっこいいです」

 一時間ほどの空の旅。

 主の山小屋は標高2300Mの場所にあります。
 目を凝らしていましたが、この島国は山が多くて、山小屋はおろか主のいる山すら見つかりません。

 窓から雲を眺めていたら、あっという間に目的地につきました。

「青空と電車、映えますね」
「ホームが木製で、なんだか雰囲気がありますね」

 空港から車で10分、駅に着きました。
 でも、この線路は途切れているようです。

「暑いので、木陰で一休みです」

 幸福という名前の駅のようです。
 なんと御利益のありそうな良い名前なのでしょうか。
 幸福駅の切符が販売されていたので、思わず買いました。
 主に見せて自慢してやるとします。
 私は北海道に降り立ったのだと!

「レトロな駅舎で、写真の撮りがいがありますね」
「中は幸福駅の大きな切符でいっぱいです! 怖い」
「幸福の鐘がありますよ! 主の分も鳴らしときますね」

 幸福駅を楽しんだあとは、本日のホテルに向かいます。

「遠出は疲れますね……」

 まだお昼過ぎですが、もうクタクタです。
 電車も飛行機も初めて乗りました。人間の乗り物は細かいルールがあって、慣れるのに時間がかかりそうです。
 この小さなクマの身には重い体験でした、クマ。

「でも、心に残る景色をたくさん見れました」

 二泊三日の北海道旅行、まだまだ楽しみますよ。
 初めての遠出ですからね!



【行った場所】
 幸福駅
 https://obikan.jp/post_spot/1491/


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