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真夏に美しいキョウチクトウの真実、ご存知ですか?

 見上げるほどの大木に夏になると、白、赤、ピンクといった美しい花を咲かせるキョウチクトウ
 一つ一つの花はツツジほどの大きさですが、一度に咲く花数が多いのでとても見栄えがします。暑さ寒さにも乾燥にも強く、生育が旺盛で丈夫なため、街路樹として植えられている姿もよく見かけます。大気汚染にも強いので、高速道路脇に植えられている姿を目にした方も多いのではないでしょうか。
 以前住んでいた町の高台に真っ白な花を大量に咲かせる大木があって、満開のキョウチクトウ見たさに、真夏に息を切らして長い坂道をのぼったことを憶えています。
 三本に分岐しながら育つのがこの木の特徴で、大きくなればなるほど枝を周囲にずっと広げていく。その枝のすべてに、樹木全体を覆うかのように真っ白い花が咲き乱れて、幻想的で、息をのむような光景でした。

 真夏の暑さを一瞬にして忘れる、まさにそんな美しさなのですが、実はこのキョウチクトウ、猛毒植物でもあることをご存知でしょうか。

キョウチクトウ(夾竹桃)

 美しい花にも、名前の由来である笹の葉のような形の葉にも、枝にも幹にも、すべてに毒があります。根にも毒があり、その強い毒は土に浸透し、根元の土壌を汚染します。あまりに毒成分が強いため、生木を燃やした煙にまで毒は含まれ、吸い込むと中毒を起こします。
 主な毒成分は、強心配糖体の一種であるオレアンドリン
 致死量だけで比較するなら、青酸カリよりはるかに毒性が高い、非常に危険な毒物です。嘔吐、下痢、めまい、脱力、不整脈といった症状を引き起こします。
 1975年には、キョウチクトウの枝をバーベキューの串代わりに使ったため7人もの男女が死亡するという事故がフランスで起こっています。熱せられることで枝から毒成分が食材に移り、中毒を起こしたためと考えられています。
 国内でも1980年に、キョウチクトウの葉が飼料に混入したことが原因で、乳牛が中毒死する事故が起こっています。

 とても丈夫で育てやすく、放って置いてもよく花をつけるため、自宅の庭に植えている方も多いのではないでしょうか。
 大きくなり過ぎないよう、少なくとも年一回の剪定が必要になりますが、その際には細心の注意が必要です。

・露出の少ない服装で、手袋やマスク、ゴーグルをつける。
・切り口から出る白い樹液も危険なので、極力触らない。
・切り落とした葉を腐葉土には使わない。
・切り落とした枝を、絶対に庭先で燃やさない。

 キョウチクトウについての注意事項をHPに載せている自治体も多いので、枝の処分方法などは、必ずそちらに従ってください。
 実はわたしの家の庭にも以前キョウチクトウがあって、剪定の際は、長そで長ズボンにゴーグル、そして、電動ノコギリを使っていました。落とした枝はさらに短く切って、ゴミ袋にしっかりと詰め、自治体に問い合わせた上で、燃えるゴミに出していました(高温で一気に焼却すると、有害な煙が出ないのだそうです)。

 これほどの毒性があれば虫はつかないだろうと考えますが、そんなことはありません。食害する昆虫は確かに少ないのですが、キョウチクトウアブラムシという、目が覚めるように黄色いアブラムシが日本にはいます。いったいどこからやって来るのか、新芽にびっしりついているのを、わたしも何度か見かけました。
 他に、キョウチクトウスズメというの幼虫は、この猛毒の葉を食べて育つのだそうです。
 植物の毒は身を守る手段で、天敵との攻防の結果と言えるのでしょうが、さらにその上をいくスズメガが現れるあたり、生き物たちは本当にたくましいと感心してしまいます。

 でも人間は、この強い毒に耐性を持つことは出来ません。
 夏はまだまだ続きます。
 これからキャンプの計画があるというみなさん、手近な樹木の枝を折って串や箸に使うことは、思わぬ危険を伴うので絶対にやめましょう。


参考文献:齋藤勝裕『ビジュアル「毒」図鑑200種』(秀和システム)

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