第21.5話 ご褒美【真莉愛目線】

――――ファミレス。

 まさか鈴城が木崎をあそこまでフルボッコにするとか、いまでも信じらんない。いったい、鈴城は何者なんだ?

 踏み入れちゃいけない沼にはまってしまった気がした。

 正直、あたしも……、

【これは真莉愛の分だ!】

 って、木崎の野郎に分からせてやってほしいと思ってしまった。木崎に酷い目に遭わされた身としては、伊集院と佐竹パイセンがうらやましくて仕方ない。

 鈴城が勝利したときにあたしにラケットを向けて、「真莉愛、おまえが好きだ!」とか言われたら、たぶん梨衣から鈴城のこと奪いたくて仕方なくなっちゃっただろう。

 そんくらい鈴城が格好よかった……。

 ホントは梨衣と鈴城がくっつけば面白そうって思って、世話の焼ける梨衣を応援してたら、なんだろ……最近鈴城の姿ばっか目が追ってしまう。

 校外学習のときはむらむらきて、ちょっと揶揄うつもりで誘ってみたが、がっつかずにあたしみたいな女でも大切に扱おうって気持ちが伝わってきて、逆に胸が温かくなってしまってた。

 あいつは、女とみるやすぐにやれるとか勘違いした木崎たちとはまったく違う。

 だめだ……鈴城は梨衣が先に目をつけた男だ。

 あたしは梨衣と鈴城の仲が上手くいうようにサポートしなきゃなんない。

 そう思えば思うほど、鈴城への想いが強くなってしまう。

 でも二番目なら許されるかな……。

 そんな馬鹿なことを思っていると、

「真莉愛、真莉愛、真莉愛ったら!」
「んあ?」
「んあ、じゃないよ。乾杯だよ」
「おお、そうだな」

 梨衣が声をかけ、鈴城のことばかり考えていたことに気づいた。

「もう言い出しっぺがぼーっとしちゃって、しっかりしてよ」

 梨衣に促されるままにそれぞれ好きなドリンクを注いだグラスを持って、あたしの合図を待っている。

「あー、えー、鈴城の勝利を祝してカンパーイ!」

 なんだろ梨衣に急かされて、ずいぶんとおやじくせえあいさつをしてしまった。

 ノンアルビールを頼もうとすると、梨衣から怒られたからコーラで我慢していたが、梨衣は紅茶を選んでいて、あたしは鈴城と同じコーラだったので、なんかちょっとうれしい。

 だけど鈴城と梨衣が隣合わせで座っていて、梨衣が摘まんだポテトを鈴城の口に運んで、鈴城が旨そうに食う。

「お熱い夫婦だなぁ、おい」

 二人は自分たちのバカップルぷりに気づいて、顔を赤くして距離を取る。

 なんかいい雰囲気だったのでうれしく思う反面、妬いてしまいそんな言葉がでてしまう。

 ずっと二人を見ているのは堪えられそうになく、鈴城のLINEに授業中にやってるように机の下に隠してメッセージを送った。

 鈴城は気づいてないのか、スルーしようとしたので足で鈴城のすねにつま先でこんこんと軽く突いて合図する。

 きょろきょろした鈴城に目配せすると彼はスマホを確認していた。

【真莉愛】
《礼がしたい》
《上手くやって》
《抜けるぞ》

               【経世】
               《あれ》
               《マジ》
               《だったのか?》

《マジに》
《決まってんだろ》

 それぞれ腹が痛い、用事がある、と適当な理由をつけてファミレスから抜け出してきた。鈴城は梨衣を撒くのに苦労したみたいだが、あたしの家で落ち合っている。

「へ~、ここって水上の家だったんだな」
「まあな、しょぼいカフェだけど」

 張り出したテラスに三角屋根の建物に一階が店舗、二階三階が住居で裏から回って鈴城を案内しようとしてたときだった。

「あら~、真莉愛ちゃん。しょぼいって言うのは酷いんじゃない?」
「あんだよ、“純喫茶 樹莉愛“なんてベタな名前つけてんだから、仕方ねえだろ」

「どうもはじめまして。真莉愛さんのクラスメートの鈴城経世と申します。もしかして、真莉愛さんのお姉さんですか?」
「ごめんなさい、ごあいさつがまだでしたね。真莉愛のママの水上樹莉愛ちゃんです。よろしくね」

 メイド服着て、頬に人差し指を当てながら、足首を後ろに上げて、ガキ向けの魔法少女みたいな痛いポーズを取るあたしの母さん……。

「なにが樹莉愛ちゃんだ。年考えろよ……」
「酷~い! 真莉愛ちゃんがいじめるぅ」

「行くぞ、鈴城。関わると面倒だ」
「あ、うん」

 残念な母さんを置いてぼりにして、あたしの部屋に鈴城を招いた。

「へ~、水上の部屋って、なんかかわいいな!」
「なっ!?」

 鈴城はベッドボードの小物置きに並んだゲーセンのプライズで取ってきたリラックマやらモルカーのぬいぐるみを見ていた。

「ちっ、ちげーし。梨衣が殺風景とか言うから置いただけだし」

 高校生にもなって、ぬいぐるみを抱っこしながらじやないと寝れねえって、鈴城にバレたらあたしの人生が絶対終わる……。

「俺は女の子らしくて、水上みたいな部屋好き!」

 なななななっ、なんだってぇ!?

「ほ、誉めてもおっぱいしか揉ませてやんねーし」

 それとあとで母さんに頼んで、うちで一番高いタンシチューセットを持ってこさせなきゃ……。

「水上のお母さん、スゴく若く見えるね。並んだら、姉妹に見えるって。それに同じ金髪だったし」

 やっぱ金髪って目立つよな……。

 鈴城ならなんとく話してもいいかなって思えてきて、つまんない話をついついしゃべってしまう。

「あたしさ、小学校んとき木崎たちからいじめられてたんだよ、国へ帰れってね」
「えっ!?」

 驚いたってことは鈴城はあたしのこと純粋な日本人と思ってくれてたんだな。

 鈴城はあたしが玉田に正面突き食らわしたことも覚えていて、訊ねてくる。

「じゃあ空手できるのも、そのせい?」
「そうだな。それもあるし、スシ、ゲイシャ、フジヤマじゃねえけど空手って日本人らしいじゃん。だからかな」

「あの突きはマジ、かっこよかった! 俺、水上に憧れる」
「なに言ってんだよ、大したことねえよ」

 なんだろ鈴城から誉められるとやたらうれしい。

「いつくらいから始めたんだ?」
「小学生の低学年からかな。小学校で金髪とかあんまいねーじゃん。やっぱ、目立つんだよ。そんときの担任は染めろとか、無茶なことは言わなかったんだけどな」

「じゃあ、髪は染めてないんだな」
「さっきうちの母さん見たろ。母さんはハーフで、あたしはクォーターなんだよ。国籍はれっきとした日本人なんだけどな」

「そうなのか、俺はてっきり染めてても痛んでなくて凄く水上の金髪がきれいだなって思ってた。ほらさ、陽の光とか当たるとマジでキラキラ輝いて金の糸みたいだから」

 鈴城の奴、真顔で誉めてくるからあたしは恥ずかしくなって、ツンな反応してしまう。

「ばっ、ばかやろう……誉めんなよ、ハズいって」
「いやいや、まだまだ誉め足りないな。髪だけじゃなく、透き通るように白い肌をしてるのにカサカサしてなくて、つやつやすべすべでたまらなく美肌だと思う」

「な、ななななななっ!? そ、そんなことねえよ……なに言ってんだよ。う、うれしかねえって」

 うれしすぎる……。

 父さんは誉めてくれることがあったけど、男の子から誉められたことなんてなかったのに。

「水上ってギャルメイクだけど、薄化粧でもめちゃくちゃ似合うだろうな。エルフぐらい神々しいかも」
「煽てたって、すっぴんで登校しねえから!」

 リップだけで登校して鈴城を驚かせてやろうか。

 ダメだ、鈴城に誉められっと調子こいてしまいそうで怖くなる。

 あたしがどぎまぎしていると鈴城はなにか思いついたように言った。

「そっか、真莉愛はキラキラネームじゃなく当て字だったんだ。水上にぴったりな名だな」
「ん~、どうだろ? 割とうちの親はそういの好きっぽいけど。ま、見た目と相まってマジヤンキー娘って感じ」

 鈴城はあたしのギャグが受けたのか、くくっと腹を抱えて笑ってる。

 なんかいい、こういうの。

 鈴城になら、昔の辛かったこと、悲しかったことを自然に話せてしまう。それでもう、つまらないことに囚われてたことが、どうでもよくなった。

「鈴城はそういうのないのか?」
「あ、俺? う~ん、まああったけど、そんなことよりいまのほうが楽しいから、どうでもいい」

 鈴城は苦労してるのは間違いない、なにせあの木崎にほぼワンサイドで勝ってしまうくらいだけに、正直底が知れない。

 あたしも梨衣が興味持つ前はただの陰キャとしか思ってなかったから。

 鈴城はローテーブルを挟んで向かいに座っていたが、あたしは彼の横に移り身体を寄せて訊ねた。鈴城は身を退くかと思ったら、意外にもそのまま寄せ合ったまんまだった。

 これじゃ、あたしのほうが火照ってしまいそう……。

「鈴城は梨衣とどこまでいったんだ? 梨衣に訊いても答えないんだよ」
「どこまでって、なんもないぞ」
「はあ?」
「俺と伊集院は、まだつき合ってねえんだって」

 まだってことは近日中につき合うってことでいいんだよな。

「そっか、じゃああたしがひと肌脱がねえとなんねえようだな」

 そうは言ったものの、せっかくなのでひとつだけ注文つけさせてもらうことにした。

「あ、あのな鈴城……頼みがあんだけどさ、聞いてくれるか?」
「ん? 俺にできそうなことなら、がんばるけど」

 ああ、鈴城があたしの目を見てきて、めちゃくちゃハズいんだけど、我慢して言ってみた。

「真莉愛、愛してるって言ってくんね?」
「マジか!?」

 鈴城は真顔で驚いてたけど、あたしは適当なことを言って誤魔化す。

「いや冗談だ、冗談。ほらよ、好きな女ができたときに告んなきゃだめだろ。梨衣とかに。その練習だよ、練習。童貞陰キャの鈴城にあたしが練習台になってやんよ」

「水上はマジいいやつだな。分かった、せっかくだし練習させてもらうな」

 あ、なんか言ってくれるみたい。しかもあたしの評価も上がってるし、ラッキーかもとか思ってると、鈴城は真剣な目であたしを見つめてくる。

「真莉愛、好きだ。俺は真莉愛のこと愛してる」

 ふんぎゅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーっ!?

 心臓が止まるかと思った。

「な、な、な、んな、マジでこっ、告る馬鹿がどこにいんだよ……ちょっと待て、マジで待ってくれ、いま深呼吸すっから……すっすっはぁ~、すっすっはぁ~」

 ダメだ、鈴城の放ったハートマークの矢が心臓にぶっ刺さって抜けねえし、梨衣じゃねえけど鈴城の目ぇ見るだけでときめいてしまう。

「大丈夫か? 背中なでようか?」
「い、いや、いいから、心配すんなって!」

 いま触れられたら、マジできゅん死する。

 萌え萌えきゅんの濡れ濡れきゅんだよ。

 でもマジで触れてほしい……。

「ひゃっうん!」

 あたしは鈴城の行動に驚いた。

 鈴城はあたしのことが心配でたまらなくなったのか、普段の無気力な目とは違い優しげな眼差しで見つめ、大きな手で背中を撫でて見守ってくれていた。

 まるで小さい頃に父さんに撫でられ、あやされているような温かみを感じ安心してしまう。鈴城の奴……あたしとタメなのにどんな包容力してるんだよ。

 あー梨衣には悪いけど、あたし今日鈴城にマジで抱かれてもいいかもしんない。

 梨衣の爆乳と較べられるのはちょっと悔しいけど、あたしは鈴城の手を取る。

「約束……覚えてるよな?」
「ああ」
「おっぱい揉むのもきちんと予習しとこうぜ」

 学校の勉強で予習なんて一度もしたことねえけどな!

「いいのか? 確認するけど、本当に俺は触れてしまうぞ」
「構わねえよ。あたしの一番ムカつく木崎をぶっ潰してくれたんだ。胸のひとつやふたつ揉んでいけって」

 鈴城の手を導いて、あたしのおっぱいに触れさせた。最初はただ手を置いて、脈を測るだけみたいな感じだったけど、あたしの早くなる脈拍も伝わってしまってるかもしれない。

 鈴城はゆっくりと手を回すように撫でてきて、思わず喘ぎ声が漏れそうになった。

 制服の上からだけのつもりだったけど、ダメだ。鈴城に触れられると心がふわふわして、夢見心地になって、どんどんオプション追加したくなる。

「すまねえ、制服しわになっから、脱いでいいか?」
「あ、ああ……」

 鈴城の脱ぐときにちらっと見えたが鈴城のズボンが膨らんでた。

 立ち上がって、スクールベストを脱いでシャツのボタンを鈴城に見せつけながら、ひとつひとつ外していく。鈴城の目線はあたしの胸元に集まり、凝視していた。

 最後に鈴城に乳首が見えないように左手で覆いながら、ヒョウ柄のブラを外すと鈴城はごくりと息を飲んでいた。

 さすがにクラスメートに乳首を見られるのは恥ずかしい……。

 あたしは胡座をかいて座ってる鈴城に後ろ向きに腰を落とした。

「生で触ってみろよ」

 おずおずと鈴城の手が伸びてきて、素肌に直に触れる。温かく大きな手に包まれたあたしのおっぱい。

 なんだかたまらなくエロい。

 あたしのほうが気持ちが高ぶってきて、鈴城にキスしてもらいたくて上半身を捻って振り向いたときだった。顔を真っ赤にしながらも、まっすぐあたしを見つめて、大胆なことを言ってくる。

「水上……俺、おっぱいに顔うずめたい」

 えっ!?

 優しい手つきで手を出してこないかと思ったら、分かってるじゃん。

「あ、ああ、こいよ、鈴城。恥じらいなんて捨てて、胸に飛びこんでこい」

 座り直すと鈴城の顔があたしのおっぱいの中に埋まる。恥ずかしいけど、なんか鈴城がかわいく思えてくるから変だ。

 鈴城の吐息が肌に当たり、温かくてくすぐったい。

 鈴城はなにをするまでもなく、あたしに抱きついたまま、しばらくそうしていた。鈴城の頭を両腕で抱いて、身を彼に委ねていると、彼は胸の中でつぶやき始めた。

「水上、ありがとう。俺さ、子どもの頃母さんといっしょに過ごしてなくて、おっぱいが恋しくて仕方がない時期があったんだ。いまも多少引きずってしまってて、本当は断らなきゃって思いながらも、水上が優しいから甘えてしまった。俺は今日のこと、ずっと覚えてる」

「いや大したことはしてねえよ。あたしもお礼のつもりだったし」

 やっぱ苦労してたんじゃん……。

「なあ、続きはしないのか?」

 鈴城は明らかにたってる。だけどあたしに襲いかかろうとしてこない。本当はこのまま……。あたしが訊いても聞こえないのか、

「ん?」

 そんな返事しか返ってこない。

「いやなんでもない」

 あたしは母さんに寝るときに歌ってもらったシューベルトの子守唄を歌い、鈴城をそのまま抱きしめていた。

 しまった!?

 あたしの身体はベッドの上で丁寧に布団がかけられており、気づくと鈴城の姿はなく机の上にメモだけが残されてあった。

 あたし、撫でられるのが気持ちよくて寝てしまったのか……。

 こんなこと初めてだ。

 あのまま流れに任せて、鈴城がその気になっても受け入れようと思ってたんたけど、なにも手を出さずに帰ってしまうなんて。

 梨衣が鈴城、鈴城ってうるさいのも、いまならスゴくよく分かる。ただ一緒にいるだけでうれしいんだ。

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