そんなお話

「こんばんは。わたしはトチ狂ったお姫様」
「自分でトチ狂ってるって言う辺りほんとはトチ狂ってないよね。こんばんは、お姫様」
「こんばんは」
「薬飲んだ?」
「飲んだわ、いつも通りに」
「僕は何に見える?」
「犬」
「どんな」
「わたしの大好きな犬」
「そうか。すりすりすり」
「もふもふもふ」
「ねえ、僕でいいの?」
「いいわ」
「ほんとに僕でいいの?」
「あなた以外に誰がいるの」
「すりすりすり」
「もふもふもふ」
「薬飲んだ?」
「ええ。わたし、いつになったら正気に戻れるのかしら?」
「すりすり」
「もふもふ」
「正気だと幸せになれるの?」
「わからないわ」
犬を名乗る男はひたすらお姫様にすりすりして、お姫様はひたすら犬をもふもふしていました。ほんとうは二人とも自分達がそんなものではないことは知っていたのです。でもそうしていると楽しくて幸せだったから、二人はそんな真似事をしばらく続けていたのでした。

つづく?

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