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【オーダー事例紹介】Randall RG100風エフェクター

本日はとあるメタラーの方からご依頼いただいた内容の紹介です。
※ご依頼主様の許可を頂いたうえで記事を公開しております。

RandallのRG100ESというアンプの歪み部分のみを抽出した回路の製作依頼で、
他のアンプに内蔵させることを念頭に以下の要件を固め、製作を開始しました。
・小型化
・コントロールは"ボリューム"と"ゲイン"の2つに削減
・電源はDC9~24Vまで対応
・入出力および電源、各コントロールは端子台接続
・エフェクター本体の製作はこちらではせず、組立後の基板のみご納品

今回は回路図や各種情報をご提供いただきましたので特別価格にてお引き受けいたしました。

試奏動画↓


なお今回製作した基板は当ショップでも販売しており、
こちらの商品となります↓

https://goooodsound.shopselect.net/items/73501622



どんなアンプ?

まずはどんなアンプか確認してみましょう。

ごりっごりのメタルサウンドですね、、、(笑)

今回はこのアンプの歪み部分を再現してほしいとのご依頼でした。

海外では自作される方も多いようで、
歪み部分の回路図や自作された方のコメント、
おすすめの代替部品の情報などが出ていました。

今回はこれらの情報を参考に、基板を設計していきます。

どんな回路?

まずは回路図を確認していきましょう。
※回路図は"Reddit"へ投稿された質問より引用

https://el34world.com/charts/Schematics/files/Randall/Randall_rg100.PNG

※ちょっと見慣れない構成の箇所が多いので、間違った解釈をしている箇所が多くあると思います。これ以降の解説はあくまでもご参考程度にお願いします。


ざっくり見た感じでは初段から順に、
・FETによる増幅回路
・ツェナーダイオード / ダイオードによるクリッピング回路
・EQ回路
・FETによる増幅回路
の4つから構成されています。

また各回路の間にコンデンサを入れることで音域ごとの増幅度を変え、
よりメタラー好みの音にしているのかと思われます。

ではそれぞれ詳しく見ていきましょう。

FETによる増幅回路



回路図1 FET増幅回路

普通の増幅回路ですね
FETを3つ使うことで大きく増幅させています。
ここで2個目と3個目のFETはいわゆるダーリントン接続で、
より大きな電圧へ増幅するための接続方法です。

また1個目と2個目のFETはドレイン接続のため波形の位相が反転します。
2個つなげることで元の位相に戻していますね。

1個目のFETは普通の増幅回路なので特に言及しません。
1kHzを入力したときの出力波形はこんな感じです↓

初段の増幅回路の入出力波形(緑が入力、赤が出力)

続いて気になるのが各コンデンサの役割です。
回路図1の青矢印は直流成分をカットし、交流信号だけ後段へ受け渡すためだけのものなのでここでは特に言及しません。

まずは周辺の波形を見てみます。

赤:初段のFET出力
緑:2段目のFETの入力
青:3段目のFETの出力

黄色矢印はいわゆるローパスフィルタの役割をし、
余計なノイズや高音成分を除去しています。

黄緑の矢印は高音域を強調する役割を果たす個所に位置しているように見えます。
22kΩと0.005uFの直列から見ていきます。
この回路では前段で増幅された信号のうち、50kΩを通す信号と並列で後段へ伝える回路となっています。
ここでのカットオフ周波数fは
f=1/CR
 = 1/(22k x 0.005u)
 ≒ 9[kHz]
となります。
これにより、高音域をより多く後段へ伝えています。

20kHzを入力したときのR7手前の波形(緑が出力)
1kHzの時に比べてちょっと正弦波に近いのがわかります。

一方20pFのコンデンサですが、
こちらはFETの帰還容量(Cgd)と呼ばれるコンデンサ成分を強化するものになります。
これはFETの動作速度に関係するもので、一般的にCgdが大きいほど動作速度が遅くなります。
実際に波形を見てみましょう。

1kHz入力時の波形(緑はC8の右側の電圧です。ツェナーやダイオードによるクリッピングは除いています。あとめっちゃズームしてます)


20pFのコンデンサを抜いた時の波形

20pFのコンデンサがあったほうが、
出力波形が若干寝ているのがわかりますね。
なぜこれを入れているかはよくわかりませんが、、、
(中音域を残すための配慮?)


クリッピング回路


回路図2 クリッピング部


こちらはよくあるクリッピング回路ですね。
特徴的なことといえば、クリッピングにわざわざツェナーを使っているところです。
(ふつうは通常のダイオードを使います。)

クリッピングの動作イメージ

ツェナーと普通のダイオードは何が違うかというと、
クリッピングする振幅とクリッピングの鋭さが違います。

ツェナーダイオードというのは一定電圧以上の電圧を全く通さない性質を持つダイオードのこと※で、
今回のエフェクターではツェナー電圧約4Vのものを使用します(≒±4Vの範囲でクリッピングする)。
※動作原理などはメーカなどのほうが詳しく解説されておりますので、そちらをご参照ください。ツェナーダイオード(定電圧ダイオード) | ダイオードとは? | エレクトロニクス豆知識 | ローム株式会社 - ROHM Semiconductor

このツェナー電圧より少しでも超えると全く通さない、という性質を利用し、
より鋭いクリッピング波形を得ることができます。

一方通常のダイオードは、一方向にのみ電流を流すという特性を利用しています。
1N4148や1N914ならおおよそ1Vくらいを目安に流れ出します(≒クリッピングの振幅が約±1V)。
この時の電圧を順方向電圧とか言います。
ダイオードにもよりますが、この電圧より少し手前から電流は徐々に流れ出しますので
クリッピング時の波形は若干滑らかになります。

とはいえ昨今の半導体は優秀なので、
下記の波形からもわかるように波形の鋭さはさほど変わりません、、、
ゲルマニウムダイオードなどを使うとわかりやすいのですが、それはまた製作後の検証で試してみます。

ツェナーによるクリッピング後の波形


ダイオードによるクリッピング後の波形

どちらかといえば広い振幅でクリッピングをすることで、入力が小さいときには歪まないようにしたかったのかもしれません。
また元の回路ではダイオードの下に「サスティン」という名前でスイッチが設けられており、
これによりクリッピングをどちらで行うか選択できるようになっています。
クリッピングの振幅が小さいということは、入力が小さくなっても変わらずクリッピングできるということなので、
入力が減衰していっても音が出続けるということになります。
(振幅が小さい分、ボリュームは大きくしないといけません。)

EQ回路・増幅回路


回路図3

最後にEQ回路と増幅回路です。
特筆すべきところはありませんので割愛します。
(ここまででおなか一杯というのもあります)

しいて言うならEQのCR回路が分かれずに3つ並んでいることくらいですかね
ふつうはそれぞれ分けます。

回路図例
画像はマルツオンライン様より引用
https://www.marutsu.co.jp/contents/shop/marutsu/mame/196.html

分けた理由としてはあまり思い浮かばず、回路の簡略化とかかなと思います。

EQ回路自体の動作が気になる方はCRローパスフィルタとかで調べてみてください。

増幅回路については最初に触れたものとほぼ変わりません。
しいて言うならFETのゲートにかかる電圧の基準が0Vではなく12V(24V駆動の場合。9V駆動なら4.5V)になっているところでしょうか。
これによってFETでの増幅がより直線的になり、前段で頑張って作った波形が変形せずに出力されます。


最終段のFETの入出力波形(通常)
緑が出力


最終段のFETの入出力波形(0V基準)
緑が出力


↑の波形より、基準を0Vとすると波形の下半分がなくなっていることがわか
ります。
これは0V付近では入力電圧により増幅率が変わってしまうことによるものです。

J201のデータシートより引用


とまあいろいろ見てきましたが、実際に発注いただいた際はここまで詳しく見てませんでした、、、(笑)
基本的な回路構成は変えない方針であり、
また具体的な目指す音をご提供くださいましたので、
とりあえず回路を組み、実際の音を聞いて判断いただくこととしました。


製作

前置きが長くなってしまいましたが、早速製作に取り掛かりましょう。

9V電源への対応

まずは電源の対応です。
もともとの回路は24V駆動が前提であったので、回路全体を見直し、、、
かと思うと海外のビルダーさんで9V対応を施している方がいらっしゃいました!
その方式はいくつかあり、ざっと以下の通りです。
・チャージポンプICにより18Vまで昇圧
・初段・2段目のFETの電源につながる抵抗器の値を変更し、9Vそのまま活用

今回は基板のサイズを小さくすることや電源電圧が24Vになる可能性もあることから、
FETにつながる抵抗を半固定抵抗とし、9Vから24Vまで対応できるようにしました。
また実際に音色を録音して共有し、電圧を変えても音色に影響が出ないことを確認していただきました。


↑電圧比較動画
9V:半固定抵抗器の設定を変えたもの
18V:チャージポンプICによって昇圧したもの
24V:元の回路


各操作系の削減

続いて操作系統の削減です。
削減とはいえ、実際にご依頼主様の環境とこちらの環境は異なりますので、
微妙に狙った音にならない可能性がります。
そのため各操作系統を半固定抵抗器にすることで、後からでも操作できるようにしました。

FETの選定

オリジナルのFETはJ201というものでしたが、
これはすでに生産終了となっており、入手が困難となっております。
今後のメンテナンス性も考慮し、現行品のFETでの音を確認しました。
結局J201が一番いい音でしたのでJ201で納品しましたが、、、


あと回路解説でも触れていた、クリッピングに使うダイオードの比較も行いました。
最終的には元の回路図通り1N914を採用しました。

1N60(ゲルマニウムダイオード)のみ音量が大きく、温かい音となっていることがわかると思います。
これは順方向電圧が高く、その付近の特性も緩やかに変化するため、
クリッピング後の振幅が大きく、波形の角が丸くなることによるものです。
この音はシリコンダイオードでは出せませんので、
今でもゲルマニウムダイオードを採用しているエフェクターもちょこちょこ見受けられます。



ノイズ対策

最後にノイズ対策です。
前述の電圧比較動画でもありましたが、
こういった歪み系のエフェクターというのは電源のノイズを大きく受けます。
また今回はアンプなどの内部に配置する可能性があるとのことでしたので、
基板側でできるだけのノイズ対策を施しました。

回路の対応
・電圧安定回路の追加(とはいってもコンデンサを追加しただけです、、、)

基板の対応
・基板両面へのGNDベタ貼り
・信号線付近へのビア追加

これにより、ノイズはかなり削減されました。

↑ノイズ対策後の試奏動画
使用している電源は前述のものと同じです。

完成!

紆余曲折しましたが、
実際に組み立て、音色までご確認いただき、完成となります。

ご依頼いただいてから約1か月と、少し長い期間お待ちいただきましたが
無事にエフェクターを完成させることができました。

普段あまり見ない回路が多く、私としてもとても勉強になりました。
今回製作した基板はご依頼主様の許可を頂き、当ショップでも販売しておりますので
ご興味のある方は是非どうぞ!


基板製作用に製図した回路図



作るの難しい?

作ること自体は比較的簡単です。
使用するFETや電源電圧によって"Trim1/2"の調節が必要なため、セットアップは苦労するかもしれません。

何か困ったことがありましたら
お声掛けいただけましたら適宜アドバイスなど致します。
いつでもお問い合わせください!

以上です。
良い自作エフェクターライフと良い音を!

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