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マスク警察のお爺さんに中指を立てました。


 昔から、知らない人に絡まれる。
 めっっっちゃ絡まれる。

「不可抗力、変な奴に絡まれまくって可哀想……」と友人に哀れまれるが、本当に人生困難です……。
 小柄で人畜無害な服装をしていることが原因ではないか、と思う。

 絡んでくる9割9分が男性だ。年代はまちまち。
 就学前の幼児から、「来月はご存命だろうか」というご老境まで、様々。

 昨日絡んできたのは、老人だった。


 
 夜の9時過ぎ。
 近所のスーパーへ寄った。
 店に入ったまさにその時、

「あ~あァ、マースクもしーないでぇ」
 変な抑揚をつけて非難された。

 振り向くと、着古したジャンパーに白髪がまばらに生えたお爺さんがいた。
 お世辞にもきれいな身なりとは言えない。
 凝視してくる目が気持ち悪い。

 マスク警察?
 いや、今更? 

 不審者に絡まれ歴20年以上の経験と勘が警告を発した。
「こいつはやべぇ奴だ」と。

 

 すぐそばには、別の非マスクユーザーがいる。
 その人は男性だった。
 ラグビー選手、と言っては大袈裟だが、髪を刈り上げ、髭を生やし、がっしりとした体格をしていた。


「何でこの人には言わないのか?」とは、今更思わない。
 こういうジジイは小心者と、相場はそう決まっている。
 自分より(見た目が)強そうな相手に意見する胆力などない。

【女性】【若年】【小柄】【地味】
 そういう記号を私から瞬時に読み取り、
「こいつなら反撃してこないだろw」とタカを括った結果の「声掛け」。
 多分、マスク着用の有無は、それほど重要ではない。

 詰まるところ、この種の老人は、若い女に説教したいだけなのだ。

 これまで散々、同じような目に遭ってきた。
 その度に、耐えてきた。

 頭の中の警報を聞きながら、私は曖昧に笑った。
 相手を刺激しないように。

 親からもそうしつけられている。
 以前、アメ横で卑猥な言葉をかけてきた外国人男性を睨んだら、両親から叱られた。両親は、強い者には決して逆らわない主義だった。
 
 うちは「ムカツク」という言葉さえご法度だった。
 怒りを表わす語彙を封じられ、言い返す言葉を奪われた。
 そもそも、怒りの感情を持つことさえ許されなかった。
 親にしてみたら、その方が子供を支配しやすいのだろう。

 
 そんなことが重なって、私はすっかり闘心を殺がれ、牙を抜かれてしまった。
 かわかわれようが罵倒されようが、俯いてやり過ごすか、笑ってごまかすだけ。
 そんな自分が嫌だった。

 
 ……もう限界だよ。

 私は笑顔をキープしたまま、右腕を上げ、中指を立てた。
 
 爺さんは固まっている。
 中指を立てる行為が何を意味するのか、見当がつかないらしい。
「何やってんだこいつ」という怪訝な顔をして、しかし、どこか居心地が悪そうに去って行った。


 一晩経っても、「また変な奴に絡まれた……」というショックは拭えない。

 ただ、今回は笑ってごまかすのではなくて、怒りの意思を示すことができた。
 本当は何か言い返したかったけれど、まあ、何もしないよりは良かった。



 あの時、ジジイが逆上して怒鳴るなりつきまとうなりしてきたら、スマホを出して、110番するつもりだった。
「危険を感じたらためらわずに110番して」とは、以前、店内痴漢を通報した際の警察の謂だ。


 若年男性が絡んでくるのは、ナンパかからかい行為。
 老年男性が来た場合の大半は、恐喝や説教。
 世間に相手にされていなさそうな薄汚い老人が、若い女を捕まえてご高説を垂れるのだ。

「もしかして自分に落度があるのかも?」と被害者側(とりわけ女性)に自責の念を強いるのがこの社会だが、それは断じて違う。
 悪い奴が悪い。

 これを読んでくださっている方も、理不尽な目に遭ったら、まずは小さな反論を試みてください。
 危険を感じたら、ためらわずに大声を出す、110番に通報するという選択肢を、思い出してください。
 この記事がお役に立てば、幸いです。


 ああー。
 優しい人だけ生き残ればいいのにー。

 
 
 


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