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アバタくんは転校生です。

これは以前 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2023~に出品したものです。

タイトル:アバタくんは転校生です。

 ある日、先生がおともだちを連れてきました。

「アバタくんは転校生です。みんな仲良くしてくださいね」

 おっとりふくよかな女の先生の後ろから、転校生は隠れるように現れます。

「ハジメマシテ。ナカヨク。シテクダサイネ」

 安物のスピーカーから聞こえてくる機械の合成音のような声に、教室のみんながざわめき出す。

「アバタくんはちょっぴり人見知りです。でも、その事をからかったり笑ったりしちゃダメよ。みんなも入学式のときのことを思い出してね? ドキドキしたでしょ? ちゃんとお勉強できるかしら? とか、ちゃんとお友達ができるかしら? とか、不安だったでしょ?」

 ラジコンのモーター音が聞こえ、先生に推められ転校生が姿を現しました。

 先生からくわしく説明がありました。アバターというそうです。病気で寝たきりになった人や心の病気で外に出られなくなった人のために開発されました。

 アバターの容姿は、標識、立て札のようでした。プラスチックのキャタピラで移動します。僕たちと同じ目線に『ひとつ目』のカメラがあります。カメラは360度回転し見渡せます。腕も一本あります。先についた3本指の手には、チョークが握られていて「あばたりょう」とひらがなで自己紹介をしてくれました。

「アバタリョウ。デス。ナカヨクシテネ」

 スピーカーの割れた声。移動するたびに鳴るモーター音。教室のみんなは「変だよね?」「気持ち悪いね?」と陰口をききます。

 僕はとても心配でした。だからアバタくんがひとりでいるときに話しかけました。

「こんにちはアバタくん。僕は永田良、お友達になってね」

 壁側を見ていたカメラが僕の顔を見つけました。

「オトモダチ。ウン。ヨロシクネ」

 アバタくんとお友達になりました。

 僕はアバタくんのたったひとりのお友達。

「おなじ『りょう』って名前だよ」

 僕たちは、共通点をいっぱい作りました。筆記用具やかばんを同じものに揃えました。

○  ○  ○

 ある日、教室でアバタくんが、走ってきた子にぶつかりました。アバタくんは倒れ、ぶつかった子も怪我をしました。修理が必要でアバタくんは一週間休みました。

 ひとりで遊んでいると、3人組の女子グループが話しかけてきました。

「あなたなんで、アバタくんと仲良くしているの?」

 女子グループはアバタくんが嫌いです。

「わたしたちと遊びましょう?」

「君たちと遊ばない。だってアバタくんと友達だから」

 僕が強くそう言うと、グループのひとりの女子が泣き出してしまいました。

○  ○  ○

 一週間後、アバタくんが帰ってきました。容姿もぬいぐるみの様でした。金属部分がもこもこの綿で隠され腕も二本に増えました。

「まるで大きなぬいぐるみだね?」

「ワタシモ。キニイッテルノョ。ソレデ。アマッタ。ワタデ。ツクッタンダョ」

 アバタくんは大きなぬいぐるみで。僕は小さなぬいぐるみをかばんにつけた。

 アバタくんは、冬になるとマフラーをくれた。バレンタインにチョコをくれた。もうこれぐらいになるとアバタくんが女子ではないか? と思うようになった。そうだったら良いなぐらいになった。

○  ○  ○

「ねえ、僕、アバタくんに会ってみたい」

「ソレハ。ダメョ」

「僕たちは友達だよね? 君、僕に隠してることない?」

「ナイヨ。ナイヨ」

「アバタくんって……女子なの?」

「ジョシジャナイヨ。オトコノユウジョウ。オトコノユウジョウ」

「嘘じゃないよね?」

「ウ。ウソジャナイヨ。ウソジャナイ。ケド。モシ。ウソダッタラ。ドウスル?」

「友達やめる。嘘つきの友達いらない」

「……」

○  ○  ○

 ある日、僕のかばんのぬいぐるみが無くなった。アバタくんに謝りにいった。

アバタくんは黙って、3人の女子グループに近づいた。

「カエシテ」

「なに言ってるの? わかんなーい」

「ナガタクンノ。ヌイグルミヲ。カエシテ」

「私たちが盗んだっていうの? 証拠は?」

「ワタシノカメラハ。ニジュウヨジカン。カンシカメラ。トッタ。ショウコアル」

「ええ、盗撮つ!! きもーい」

 アバタくんのぬいぐるみの手が、リーダーの女子の頬を叩いた。

「ワタシコンナダカラ。ナガタクン二。フサワシクナイ。ワタシコンナダカラ。トモダチデ。ガマンシテタノニ。ヒドイヨ」

 アバタくんは教室を飛び出した。そのまま一週間おやすみした。

○  ○  ○

アバタくんが休みの間に、女子グループの気の弱い女子から告白された。

「僕にはアバタくんがいるので」と断った。女子はまた泣いていた。

 最初は看板か標識だと思った。

 リモコンプラモデルだと思った。

 それがトモダチになった。

 友達がおっきなぬいぐるみになった。

 ぬいぐるみになってから僕にプレゼントをくれるようになった。

 アバタくんが女の子なら良いなと漠然と思うようになった。

 そして今日、アバタくんはアバターを捨てた。

 とっても着飾った服装で登校してきた。女子グループの誰にも負けない美少女だった。

 相変わらず先生の後ろに隠れてたけれども。

「おはよう。ねえ。わたし。ウソをつきました。ウソつきの友達。イラナイ?」

「ウソつき!!」

「も、もうトモダチじゃ。なくなった?」

「僕の、ぼくの彼女になってください」

「……ハイ。モチロンダヨ」

 僕に彼女ができた。友達で彼女ができた。アバタくんは僕にベタ惚れだった。



おしまい


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