大森靖子「VOID」
靖子ちゃんを高校生の時に知って、それ以来ずっと靖子ちゃんが作る曲を聴き続けている。どんな時も寄り添ってくれる歌詞と、キャッチーなメロディ、靖子ちゃんが描く世界は、現実味があって生々しいのに、すごく可愛い。ドロドロした思いを可愛く昇華し、逃げ場のない感情を受け止めてくれる。彼女が作る曲は私の人生の一部になっている。
彼女が書いて歌う曲の中で、特に好きな曲は『VOID』だ。好きで思い入れのある曲は選べないほどたくさんあるが、その中でも『VOID』は私の中で特別な曲になっている。
だめになってしまったり、感情がまとまらなくなってしまったりした時、元気を出したり、前を向いたりしたい時、いつもこの曲を聴いた。
『VOID』は友達でもない、恋人でもない、側から見れば、空虚=voidな関係性の2人を描いた曲だ。曲中で、「どうせ僕のこと捨ててしまうのさ」とか、「満足できなかったら忘れていいから」などと出てくるので、僕の思いは一方通行であることがわかる。彼女が自分に関心をもたないなか、片思いをし続けて、彼女の都合のいい相手になることも厭わない。「僕」の視点から「君」への思いを走り切るように歌っているので、「君」は「僕」の主観が混じっていて、輪郭がはっきりしない。また一人称が「僕」であるため、曲をきいた気分、時間、場所によっていろんな解釈ができる。
VOIDの曲全体の解釈を固定したくないので、あえてここではVOID LOVEやVOID MEについて追求しない。
その代わりに、グッときた歌詞を紹介しようと思う。
①「笑わなくっても余裕で天使さ」
笑うとかわいいねと言われることはあっても、笑わなくてもかわいいねと言われたことはない私にとって衝撃だった。これは最大級な愛の告白だし、大きな愛がなければでてこない言葉だと思う。
「君」が自分に対して笑わないと可愛くないと思ってることを受けて出た言葉のか、それとも「僕」に対して笑顔を向けることはなく、いつも不機嫌そうな顔をしていて、それでもかわいいと思われてるのか、どんな理由があっても僕からこの言葉が出てくることによって、僕から君への思いの強さがわかり、慈愛のような感情も読み取れる。逃げるのが下手で、でも家から抜けてシェルターのような居場所を求めて僕の部屋に行く。そんな女の子だとしたら、笑わなくっても余裕で天使さと思ってくれる人がいるのは救いだと思う。でもこの思いは一方通行で、彼女には伝わらないし、彼女は、僕と特別な関係になりたいとは望んでいない。
② 「どうせ僕のこと BABY 女友達に話さないでしょ」
この歌詞は多分女性にしか書けないし、自分が女であるからこそ一瞬で理解してしまった。僕の自己肯定感の低さが表れているともに、女のそこはかとなくドロドロしたものがまとわりついている。もしかしたら、君は女友達に空虚な存在として、記号としての僕を話すことはあるかもしれない。でも僕は、あくまで彼女にとって空虚な存在であるため、彼の生活だとか好きなものなどのパーソナルな話はしないと思う。女友達に僕のことを惚気たり、相談したりすることは多分訪れないと暗に示唆している。なんというか君の計算高さとか、薄情さが表されてて、興味ない人を形容する表現として腑に落ちる感じがする。でもそんな君はとても人間らしくてかわいい。
以上長々と書いてしまったが、大森靖子は天才です。VOIDはいい曲なのでぜひ聞いてみて欲しい。
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