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ポテト

「駅のポテト屋さん、今月で閉店しちゃうんだって。」
高校の帰り際、落ち葉が積もった下り坂を歩きながら明菜は言った。
「やっぱりポテト入れ過ぎだったんだよ。」
そうかもしれない。去年の暮れ、あまりおいしくないラーメン屋さんが閉店した跡地にできた駅のポテト屋ピジョンズはフライドポテト一つ270円、それで有名ハンバーガーチェーンのポテトLサイズの5倍はポテトが入っている。

いや、正確には入っていない。全く入っていない。

入れ物に入りきらないので、ひときわ大きな紙袋の中に、入れ物と満タンのポテトが入れられている。入れ物は意味をなしていなかった。ポテトが非常に多いので、学生には嬉しいけど、店は潰れないのかな、なんてみんなと話していた。
あまりにも量が多いので、みんな店の周りのハトにも分けてあげていた。ハトは他で見たことがないぐらい丸々と太っていた。塩分が多いハズだけど、ハトは高血圧にならないのだろうか。

「閉店までに何回か行ってみようか。」

そんな話をしながら、色付いた葉っぱでいっぱいの坂道をくだり、店に近付くと、店の前の広場に人とハトが集まっているのが見えてきた。そういえば最近、ハトが増えてきた気がする。餌が有るから集まってきているのだろうか。人に慣れているのか、すぐ横を歩いても怖がるそぶりもない。

店に着いて、2人で揚げたてのポテトを買ってベンチに座った。体に悪そうな味。いつもの変わらない味だ。「糖質、油、塩分、旨味成分」は人にとって麻薬に近い依存性が有るらしい。この店に定期的に来てしまうのは、自分も中毒になっているからなのかもしれない。

近付いてきたハトにポテトを一切れ投げてやった。ハトは小走りにポテトに近付いて、少し様子をうかがいながらポテトをくわえた。

そうしてポテトを半分ほど食べた所で、明菜が思い出したように言った。
「そういえば、この広場、夜にお化けが出るって噂知ってる?」
【続く】

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